
こんにちは、奈良在住の編集者・ふなつあさこです。今回は、2022年にスタートし、今年で4回目を迎える「京都モダン建築祭」の会期直前レポートをお届けします!
建築好きというと男性が多いイメージもありますが、明治・大正期から戦後にかけての“モダン建築”となると、圧倒的に女性人気が高いそう! 年々人気が高まっていることもあって、今年は過去最多129建築が参加するとのことで、今から期待が高まります。
京都モダン建築祭にはまずパスポートを入手するのがおすすめ。公開日はそれぞれの施設によって異なるので、見たい建築を優先して予定を立てるもよし、訪問日に見学可能な建築からチョイスするのもよし。すでに募集が終了しているものもありますが、ガイドツアーや特別イベント、連携企画も用意されています。詳しくは公式サイトでご確認を。

レトロモダンの名建築「五龍閣」
【公開日:11/8(土)、11/9(日)】

11月1日からの会期にさきがけて、一部の建築をめぐるプレスツアーに参加してきました。まずは京都・東山の五龍閣へ。
“関西近代建築の父”ともいわれる建築家・武田五一が手がけた洋館は、元は製陶業で財を成した松風嘉定の邸宅。大正10年(1921)に和館とともに建てられたそう。
現存しているのは洋館のみで、現在は「CAFE五龍閣」として営業しているので、1階は飲食の際に拝見できるほか、建築祭期間以外にも月に1回全館の見学ツアーが開催されているそう!

プレスツアーは、京都モダン建築祭委員長で京都工芸繊維大学 准教授の笠原一人(かずと)先生にアテンドいただきました。
「京都モダン建築祭にお越しいただくことで、モダン建築を見て楽しむのはもちろん、学ぶことも楽しんでいただけると思います。私もモダン建築を愛するひとりですので、モダン建築に親しんでいただける方が増えることで、大切にしたいという気持ちを共有でき、長く後世に残すことに繋げられるよう願っております」と笠原先生。

カフェとしてふだんから入ることができる1階は、洋風建築のニュアンスが強め。サンルームも素敵です。

通常は公開していない2階は、日本建築に見られる「格天井(ごうてんじょう)」や長押(なげし)が取り入れられるなど、やや和テイストが強め。
武田五一は、ジャポニズムの影響を受けてウィーンを中心に流行した「セセッション様式」を逆輸入する形で好んで取り入れたそう。和と洋がバランスよく調和しています。

外から見ると煙突のように見えていた「望楼(ぼうろう)」からは、八坂の塔も見下ろせます。京都でも珍しい高台に位置するこの一帯には、当時の富裕層の邸宅が建ち並んでいたそう。
屋根の端には寺院などに見られる「鴟尾(しび)」のような飾り瓦が。
京都・祇園の象徴「祇園甲部歌舞練場」
【公開日:11/8(土)、11/9(日)】

次に訪れたのは、「え!? ここもモダン建築?」と一瞬思ってしまった祇園甲部歌舞練場。
京都五花街の祇園甲部の芸舞妓さんたちによる舞台、春の「都をどり」、秋の「温習会(おんしゅうかい)」が開催されることでも有名。入母屋造(いりもやづくり)の建物に唐破風(からはふ)の車寄せを設けた本館と資料館は、大正2年(1913)に竣工。

資料館には、芸舞妓さんたちの簪(かんざし)やお着物などのお道具が。こちらも見応えがあって、あっという間に時間が経ってしまいます。

柱で支えることなく大空間が広がる本館の客席。これを成しえた技術こそが、西洋建築がもたらした「トラス構造」。
日本の伝統建築は、基本的に縦と横に部材を組み合わせますが、部材を三角形に組み合わせるトラス構造を取り入れることで、広い空間を支えることができるようになったのだそう。

屋根の中のトラス構造がよくわかる模型。2022年には耐震補強工事が行われましたが、増築部分も含めて創建以来の雰囲気はそのままに残されています。

よくよく考えれば本来外にあるような構造の2階席や、こちらも外にあるはずの唐破風を舞台中央に設けるなど、クリエイティビティあふれる設計は、当時としてはかなり斬新だったはず。伝統性と近代性が不思議と調和しているのも、モダン建築の魅力。
建築祭初参加! 「京都大学人文科学研究所分館(旧東方文化学院京都研究所)」にひと目惚れ
【11月8日(土)、11月9日(日)※要オンライン整理券】

戦前に国の研究機関として設置された「東方文化学院」の京都研究所の建築は、現在、世界文化に関する人文科学の総合研究を行うことを目的とする京都大学人文科学研究所分館として利用されています。
住宅街で異彩を放つその外観をひと目見て、フォーリンラブ。

ロマネスク様式を基調としつつ、バウハウス的なモダニズムをしのばせた建物は、武田五一の弟子の一人でもある建築家・東畑(とうはた)謙三の比較的初期の設計作品。

中庭に出るや、もうここが日本の京都であることを忘れて、イタリアやスペインあたりの修道院を訪れたような気分に。

それでいて、ステンドグラスや壁の飾りに、四神(ししん。古代中国由来の東西南北を司る霊獣)や饕餮(とうてつ。古代中国の怪物)といった東洋的なモチーフが取り入れられています。
建築祭への参加は、2029年に京大人文研創設100周年を迎える記念事業の一環とのこと。基金も募っているそうなので、ご縁のある方はぜひ。
京都御所のための豪華な防火施設「旧御所水道ポンプ室」
【公開日:11/8(土)、11/9(日) ※要オンライン整理券】

次なるモダン建築は、京都・岡崎の旧御所水道ポンプ室。滋賀の琵琶湖から京都をつなぐ明治時代中期に造られた人工の運河「琵琶湖疏水(そすい)」の関連施設のうち、5か所が国宝、24か所が重要文化財に指定されています。
こちらは、京都御所に火の手が迫った際に備えて明治45年(1912)に設けられたポンプ室で、重要文化財に指定されています。

御所のために建てられたこともあり、ポンプ室とは思えぬ豪華仕様。設計を手がけたのもは、明治期に活躍した宮廷建築家・片山東熊(とうくま)。代表作に迎賓館赤坂離宮や奈良国立博物館仏像館(いずれも現在の名称)など。

すぐ近くにある琵琶湖疏水第三隧道(すいどう。トンネルのこと)は、国宝! 建設されたのは、明治22年(1889)。
舟運・水力発電・上水道・農業・工業用水などを目的とする一大プロジェクトとして築かれた琵琶湖疏水は、明治維新後に衰退した京都の復興の原動力となったそうです。
旧呉服商の洋風町屋「膳處漢(ぜぜかん)ぽっちり」
【飲食利用は可・連携企画あり】

京都・室町、錦小路通沿いにある呉服商・富永商店の複合建築をリノベーションした膳處漢 ぽっちりでランチタイム。
京都と北京の古い建物の佇まいがどこか通ずることから、中国宮廷料理の流れを汲む北京料理店として営業しています。運ばれてきた瞬間から目にも美味しい豆皿の盛り合わせ。

建物の話をしておきますと、こちらの建物は通りに面した店舗棟とその後方の居住棟に分かれた「表家(おもてや)造り」になっています。こちらの場合は、表が洋館、奥には京町家になっています。竣工は、昭和10年(1935)。

1階の大広間は、かつては畳敷きだったそう。お店の利用は、ランチ、ディナーともに予約がおすすめ。京都モダン建築祭期間中は、飲食時にパスポート提示でドリンク1杯がサービスされる連携企画が用意されています。

ふかひれあんかけご飯にデザートの杏仁豆腐までいただき、大満足! 夢のランチ……!
今年のツアーは大人気! 次の機会にぜひチャレンジしてほしい「大丸ヴィラ」

大丸初代社長・下村正太郎氏の邸宅として、かの有名なヴォーリズ建築事務所が手がけた英国チューダー様式の洋館は通常完全非公開。
今年の建築祭では特別ツアー参加者のみが見学できるのですが……ごめんなさい、実はもう受付終了していて、満員御礼です……!

敷地内に一歩立ち入ると、またしてもここが京都であることを忘れてしまいます。鉄筋コンクリート造でありながら、屋根の側面など目につく部分に木材を用いたハーフティンバー(半木造)の瀟洒な建築は、見飽きない美しさ。
そのアイディアソースとなったのは、下村氏が目にしたロンドンのリバティ百貨店だそう。

大広間のガラス戸には、下村氏が欧米を旅した際に撮影した写真が焼き込まれています。暖炉から壁にかけてはリネンを折ったような意匠が使われていたり、ヴォーリズ建築にしばしば見られるという八芒星を取り入れた天井のデザインも可愛いし、ここは日本ですか? 日本の京都です。信じられない。

部屋ごとにガラッと雰囲気が変わります。こちらの壁はレンガ造と見せかけて、「泰山タイル」が使われています。
外壁や別の部屋の床にも使われているこのタイルは、池田泰山氏が大正6年(1917)に京都で開所し、昭和48年(1973)まで続いた泰山製陶所によるもの。つまり京都産。関西のモダン建築にはしばしば登場するのだそう。

