車道を走行していた電動キックボードや自転車の利用者が、赤信号で停止した後、いったん降車。そして車両を手で押して、赤信号の停止位置を越えたところで再び乗車して走行を続ける――。
信号待ちの時間を短縮するためなのか、車道左端において「歩行者」と「車両」を切り替えて進む電動キックボードや自転車の光景がSNSで話題になっている。
「これってありなの?」「信号無視になるのでは?」と疑問の声が上がる一方、「手押しは歩行者になるから大丈夫だと思ってた」「モヤモヤはするけど違法じゃない」といった声もある。
実際には、こうした行為に法的な問題はないのだろうか。
信号無視にはあたらないが… 弁護士の見解
交通事故に多く対応する鷲塚建弥弁護士は、「結論から言えば、この行為を直接に処罰する規定は現行法にありません」と話す。
まず前提として、自転車や電動キックボードから完全に降りて車両を押している間は、「歩行者」として扱われる。
ここで重要なのが、歩行者と車両では、赤信号の示す意味が異なるという点だ。
道路交通法施行令2条1項は、車両用信号の「赤色の灯火」について、歩行者には「道路を横断してはならない」と定めている。一方、車両については「停止位置を越えて進行してはならない」と定めている。
つまり、赤信号で禁止されているのは、歩行者の場合は「横断」であり、車両の場合は「停止位置を越えて進行すること」だ。
鷲塚弁護士は、「たとえば、進行方向に沿った横断歩道がなく、車両用信号が赤という状況で車両を降りて歩行者となった場合、歩いても車道に沿って前進しているだけということになります」と説明する。
赤信号の停止位置を越える前に完全に降車して歩行者となり、車両を押し、その先で再び乗車するという形であれば、「車両として停止位置を越えて進行した」と評価することは難しいのだという。
一方で、注意が必要なのが、押して歩く際の通行場所だ。
歩道と車道の区別がある道路では、歩行者は原則として歩道を通行しなければならない(道路交通法10条2項)。歩道があるにもかかわらず車道を押して進んだ場合、形式的にはこの規定に反することになる。ただし、この規定には罰則がない。
また、「信号を避ける目的で降車してはならない」といった規定もない。
鷲塚弁護士は、これらの点を総合して、「歩行者になる動機が“抜け道”的であっても、行為の態様が適法である以上、処罰の対象にはなりません」と述べる。
とはいえ、車両信号が赤である以上、横断歩道を青信号で渡っている歩行者がいる可能性は高い。その歩行者の流れを直角に横切る形になるため、接触の危険は小さくないと鷲塚弁護士は警鐘を鳴らす。
利用者が注意すべき3つのポイント
「乗車と徒歩の切り替え」を行う際に、利用者が注意すべきポイントとして、鷲塚弁護士は以下のような点を挙げる。
・降りるときは、完全に降りる。
・乗車は、交差点や横断歩道を完全に抜け、周囲を確認してから。
・誤作動による転倒を防ぐため、電動モデルは電源を切る。
特に、車両にまたがったまま足で送る、片足をステップに残して滑走するといった状態について、鷲塚弁護士は「法的には依然として車両の運転と評価される余地があり、その場合は信号無視となります」と指摘。
さらに「そもそも、この行為で節約できる時間は信号一回分、多くても数十秒でしょう。降りて押して、また乗る手間を考えれば、得られるものはほとんどありません」とあえてそこまでして信号を回避することに疑問を呈した。
シェアサービス事業者の見解は
この行為について、電動キックボードのシェアサービス事業者はどう見ているのか。
株式会社Luup(ループ)は、この行為が「直ちに道路交通法に違反するものではないと認識しております」と回答。その上で、「制度上認められた行動ではあるものの、周囲の方への配慮(急な進路変更を避ける、左右確認をするなど)を利用者の皆様に心がけていただけるよう、当社としても交通ルールの周知・発信を強化してまいりたい」とした。
同社は、16歳以上であれば運転免許なしで利用できる特定小型原動機付自転車の特性を踏まえ、警察庁監修の交通ルールテストを導入。満点を連続で取るまで利用できない仕組みとし、信号遵守を含む基本的な交通ルールの理解を促しているという。
弁護士JPニュース編集部では、Lime(ライム)株式会社にもコメントを求めたが、「ご回答を差し控えさせていただければと存じます」と返信があった。
繰り返すが、現行の道路交通法は、歩行者に対する赤信号の規制を「横断の禁止」に限定しているため、今回のような行為を直接規制する規定はないのが実情だ。鷲塚弁護士は、規制すべきかは立法政策の問題としつつ、「押し歩きを一般的に規制すれば、駐輪場へ向かう人など正当な通行まで巻き込むことになり、慎重な検討を要する」と指摘している。
周囲の歩行者への配慮や安全面でのリスクをどう考えるか。利用者一人ひとりの判断が問われそうだ。

