出張日当「7500円」不正受給で懲戒解雇も…“会社側”敗訴 「故意」認めた裁判所が“処分は重すぎ”と断じたワケ

出張日当「7500円」不正受給で懲戒解雇も…“会社側”敗訴 「故意」認めた裁判所が“処分は重すぎ”と断じたワケ

「7500円」の出張日当の不正受給で「懲戒解雇」は妥当か――。

不動産売買などを手がけるX社で、正社員のAさんが懲戒解雇された。理由は、3回にわたる出張日当の不正請求である。

裁判において会社は、解雇の正当性についてさまざまな理由を述べたが、裁判所は7500円の不正受給に対する処分としては重すぎると判断。「懲戒解雇も普通解雇も無効」との判決を下した。

以下、実際の裁判例をもとに事件を解説する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

Aさんは、不動産の売買などを行うX社の正社員として、主に営業関連の業務に携わっていた。

■ 出張日当のルール

  • 半日の場合(正午前に出発したケース):2500円
  • 全日の場合(正午を超えて出発したケース):5000円

請求手続きは、旅費精算書と交通費などの領収書を上司に提出し、決済を経て交通費や日当が支給される流れとなっていた。

■ 3回にわたる出張日当の不正受給
Aさんが不正受給を行ったのは合計3回である。実際は正午を超えて出発したため半日の日当2500円しか受給できないにもかかわらず、いずれも正午前に出発したと報告した。

【報告書の記載】

  • 1回目:午前11時に駅発
  • 2回目:午前11時に駅発
  • 3回目:午前11時30分に駅発

しかし、実際は自宅を出発した時点ですでに正午を超えていた。

■ 懲戒解雇
X社はAさんを懲戒解雇した。その際、不正受給の他にも、無許可副業、リモートワークの不正利用、家族休暇の不正利用、在宅勤務日の怠業と勤務時間の虚偽申告といった理由をあげた。しかし、裁判ではこれらの事実は認定されなかった。

よって、裁判の焦点は「合計7500円の不正受給のみを理由とする解雇が有効か」に絞られた。

裁判所の判断

裁判所は「懲戒解雇は無効」と判断した。なお、X社は普通解雇も主張したが、裁判所は「普通解雇も無効」と結論づけている。

■ 「未必の故意」は認定
Aさんは、出張が全日か半日かをそこまで意識していなかったとみられる。なぜなら、裁判所での尋問において「出張日当に全日と半日があり、金額が異なっているという認識はあったが、旅費精算書の主な目的が、従業員の立て替えたお金の精算と認識していたので、記載の正確性についての意識があまりなかったのだと思う」と供述しているからだ。

この点について裁判所は、「未必的な故意(※)はあった」と認定した。詳細は下記のとおりだ。

※「未必の故意」とは、ある結果が起きるかもしれないと分かっていながら、「それでも構わない」と考えて行動する心理状態をいう。単なる不注意とは異なり、法律上は「故意」の一種として扱われる

  • Aさんは、大まかな時刻を入力しており、そのような精算書を会社に提出すれば、現実の乗車時刻とは異なる大まかな時刻が記載された旅費精算書が決裁に付されてしまうことについて認識していたといえる
  • そして、Aさんは、会社の制度として、出張日当に全日と半日があり、金額が異なっているという認識を有していた
  • そうすると、実際には半日日当しか支給されない出張旅程であるのに、現実の乗車時刻とは異なる出発時刻等に基づいて、全日日当が支給されてしまうかもしれないことを少なくとも認識しつつ、それでも構わないという心理状態、すなわち「未必的な故意」の下で、本件各出張に関する旅費精算書を提出して出張日当を請求し、受給したと認めるのが相当である

■ 「確定的故意」はあったのか
続けて裁判所は、「未必的な故意を超えて、確定的な故意があったのか」についても検討している。なぜなら、確定的な故意があった方が悪質性が高く、解雇が有効との判断に傾く一事情といえるからである。

しかし、裁判所は、「確定的故意まではなかった」と認定した。詳細は下記のとおりだ。

  • 全日日当と半日日当の差額は2500円に過ぎず、給与総額が58万4000円に達するAさんが、懲戒処分の危険を冒してまで、確定的認識の下にこのような不正請求をするものなのか自体、疑問の余地がある
  • 仮にそのような危険を冒してまで確定的な認識の下に全日日当を得ようとするのであれば、より巧妙に、たとえば全日出張になるような行程での指定券等を購入して領収書を取得した後に乗車券を払い戻したり変更したりして、実際とは異なる出張旅程であるかのように装うなど、相応の手数をかけることがむしろ通常ではないかとも考えられる
  • ところが、Aさんの作成した本件各出張に関する旅費精算書は、大まかな時刻による行程が記載されたものにすぎない。その上、添付資料として提出された領収書に記載されている新幹線の発車時刻や到着時刻と旅費精算書に記載された時刻との差も大きい。これらは、旅費精算書の添付資料として提出されている領収書の内容をもとに時刻表を確認すればすぐに発覚するもので、意図的にこのように稚拙な不正請求をすることは考えにくい

■ 懲戒解雇は「重きに失する」
以上の事情を総合考慮した上で、裁判所は、「Aさんの行った出張日当の不正請求は、確定的故意ではなく未必の故意に基づくものにすぎない上、その態様も稚拙で、金額としても1万円に満たない少額のものである」として、「懲戒解雇は、処分量定の観点から重きに失し、社会的相当性を欠くものといわざるを得ず、無効」と判断した。

■ 普通解雇も「無効」
さらに裁判所は、「普通解雇も無効」と判断した。裁判所は以下のように、X社側の管理体制の甘さを指摘している。

  • 証人Bの供述によると、30分単位や1時間単位のおおざっぱな旅費精算書が決裁に上程されても、この点にそこまでの注意は払われずに決裁が行われていた
  • 従業員に対する信頼の上で出張旅費の精算が行われていたという実態には理解ができる面もあるものの、いささか安易な運用に流れていたのではないかとの感も残る
  • この点で、Aさんによる出張日当の不正請求は、自身の直接の管理下にある金銭、たとえば顧客から受領した現金や、レジスター内に存在する現金を直接的に領得した事案と同様にみることはできない
  • そのような運用のもとで、未必の故意に基づいて真実に反する旅費請求がされ、これが決裁されて出張日当が支給されたという経緯からは、これをひとりAさんのみの責任として解雇とすることは、やや行き過ぎた対応であるようにも思われる

とはいえ、裁判所はAさんの行為について厳しい目も向けている。「未必的とはいえ、故意により出張日当を不正受給したことを軽視することはできない」と判示しているからだ。

最後に

金銭の不正受給を理由とする解雇は、一般的にその金額や態様の悪質性、社内の処分基準、会社の管理体制などが総合的に考慮される。数千円とはいえ、故意による不正受給が許されるわけではない。

もっとも、本件では不正の態様が稚拙で、確定的故意も認められなかった。さらに、会社の旅費精算の運用が「いささか安易」であった点も考慮され、解雇は無効と判断されている。

一方で、たとえばレジから2000円を盗んだ行為で解雇が有効とされた裁判例もある(【関連記事】職場のレジから「500円」盗みクビ、裁判所も“解雇妥当”の判決…「これくらいバレないだろう」の怖すぎる末路)。金額の多寡だけで解雇の有効性が決まるわけではない点は、注意が必要である。参考になれば幸いだ。

配信元: 弁護士JP

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