保有拡大を促す政策改革と政府の施策
APAC地域では、規制変更と政府の新たな施策が金保有拡大の支援材料となってきました。複数の政府が最近実行した措置は、当地域の金保有を引き続き後押しすると考えます。
中国:2025年2月、中国は国内保険会社10社を対象に、各社が資産全体の最大1%を金に投資することを認めるパイロット・プログラムを導入し※12、新たな機関投資家の参入を促す画期的な一歩となりました※13。この動きは、中国の資本規制や不動産市場の問題が原因で、投資の選択肢が限られていることを反映しています。中国人民銀行(中央銀行)が金へのエクスポージャー拡大に重点を置くなかで、将来的には配分比率の上限が設定される可能性があり、機関投資家の需要をさらに押し上げ、金保有の裾野を広げると考えられます。
香港:2024年10月、香港特別行政区政府は香港を世界的な金取引のハブとして位置付ける計画を発表しました。主要な施策には、保管容量の拡大、インフラの整備、金の取引・保有を支援するための金融規制の強化などが盛り込まれています※14。主な狙いは、中国本土との結びつきを強め、国際的な金市場における香港の戦略的役割を強化することにあります。
インド:2024年7月、インド政府は国内の金産業を活性化するための金推進改革を発表しました。主要な施策には、輸入関税の引き下げ(金を15%から6%に、金鉱石を14.35%から5.35%に引き下げ)が盛り込まれ、これにより輸入関税は10年超ぶりの低水準となりました※15。長期キャピタルゲイン税の対象となる保有期間は36カ月から24カ月に短縮され、税率は20%(インフレ調整の適用あり)から12.5%(インフレ調整の適用なし)に引き下げられました※16。
さらなる優遇措置は2026年4月に発効し、金ETFとミューチュアルファンドは税制優遇措置の対象に再分類されます。こうした変更の狙いは、投資家の参加を促し、インドの金融市場における金市場の成長を支援することにあります。
日本:2024年1月、日本は長期投資を推進するために、英国の個人貯蓄口座制度(ISA)をモデルとした新たな少額投資非課税制度(新NISA)を導入しました。年間非課税投資枠を360万円に引き上げ、成長投資枠の上限を240万円に倍増し、非課税保有期間の制限を撤廃しました。個人は最大1,800万円までを非課税で無期限に保有することが可能です。新たな枠組みでは、1127兆円に上る国内のタンス預金などを活用するために、金投資信託や金ETFも成長投資枠の対象となっており、金へのエクスポージャーを求める個人投資家にとってはアクセスのしやすさと魅力度が高まっています。
APACのアセットオーナーに堅調な金需要見通し
昨年、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントとワールド・ゴールド・カウンシルは、市場環境が金投資のセンチメントに及ぼす影響を評価する目的で、APAC地域におけるアセットオーナー63社を対象に調査を実施しました。調査では、APAC地域のアセットオーナーの24%が金を保有しておらず、北米と同様の状況にあることが分かりました※17。一方、APAC地域の回答者の27%は、向こう12~18ヵ月間に金への配分比率引き上げを計画していました(北米では21%)※18。主な理由としては、市場のストレス時における分散投資手段としての金の役割、リスク調整後リターンを高める効果、フィアット通貨の下落に対するヘッジ機能などが挙げられました。
APAC地域のアセットオーナーによる金需要の高まりは、今後も金現物価格上昇の主要な推進力になると予想されます。この傾向は単に循環的なものではなく、マクロ経済が不安定な中で分散投資を求めるアセットオーナーの投資行動の長期的な構造的変化を反映しています。さらに、税制・政策・マクロ面の明らかな追い風も当地域の金投資の伸びを後押ししています。これにより、金需要の基盤が多様化することで、すべての金保有者に恩恵がもたらされます。長期にわたる文化的な重要性に加え、APAC地域における中央銀行、個人投資家、仲介機関、金融機関の関心の高まりは、戦略的な金融資産としての金の復活を裏付けています。
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Robin Tsui(APAC Gold Strategist)、アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)、Aakash Doshi(Head of Gold Strategy)
