いつまでも輝く女性に ranune
〈smbetsmb〉アートディレクター・新保美沙子さんが「しつらえ」の美意識を学んだ、5本の映画。

〈smbetsmb〉アートディレクター・新保美沙子さんが「しつらえ」の美意識を学んだ、5本の映画。

「美しい」を見つめ直すためのヒントを探った、&Premium143号(2025年11月号)「美しい、ということ」より、〈smbetsmb〉アートディレクター・新保美沙子さんの感性に響いた作品とシーンを特別に紹介します。

余白こそ、しつらえ。”静の設計”が場を導く。

シンプルで無機質とも思える部屋は、大きな窓や空間を仕切るベッドがアクセントに。

モスクワからイタリアの田舎にある温泉街を訪れた詩人アンドレイと通訳の女性エウジェニア。二人は別々の部屋を取っていて、劇中ではアンドレイが宿泊した一室が描かれています。この部屋の質素なしつらえが美しくて印象に残りました。バスルームと外光が当たる部分だけが明るく、そのほかのスペースは影が深い。そして、広い空間にはポツリとベッドがひとつ。光と影のコントラストや余白の取り方に引き込まれます。実際このホテルには、もっとたくさんの家具が配置されていたようですが、タルコフスキーは、空間の密度を繊細に調整し、人が美しく存在できる余白を整えているように感じます。

ノスタルジア監督 アンドレイ・タルコフスキー

旧ソ連映画界の巨匠・タルコフスキー監督の長編映画6作目。自死したロシアの音楽家パベル・サスノフスキーの足跡を追う旅を続ける、詩人アンドレイ。イタリア・トスカーナ地方で狂人扱いされている、世界の終末を信じる男と出会い、ある約束をする。Nostalgia / 1983 / Italy, USSR / 126min.

ユーモア溢れる文字が、住まい手の想いを届ける。

大きな窓から地中海を一望できる洗面所。青い壁に白文字でメッセージを記した。

「この家は、私たちの延長であり、精神的な広がりであり、解放でもある」。そう言葉を残したアイリーンが手がけたのは、環境と建物、家具の調和が細部まで行き届き、暮らす人の心地よさを第一に考えた住まい。印象的なのは、この家で過ごすうえでのマナーを、ユーモアを交えたフランス語で記しているということ。例えば、洗面所のコーナーシェルフには「軽いものだけ」というメッセージが添えられています。ほかにも、「おしゃべり禁止」と書かれた場所があったり、玄関の壁に「ゆっくり入ってください」という言葉を書き記していたり。家を訪れる人との言葉でのコミュニケーションまで、しつらえの一部に感じられます。

E.1027 - アイリーン・グレイと海辺の家監督 ベアトリス・ミンガー

家具デザイナーとして評価を集めていたアイリーン・グレイ。彼女の建築家としてのデビュー作が、恋人と過ごす南フランスの地中海沿いに建てた別荘「E.1027」。建築家のル・コルビュジエはこの家の芸術性を高く評価し、足繁く通った。そんな彼らの関係性も描かれた作品。E.1027 : Eileen Gray and the House by the Sea / 2024 / Switzerland / 89min.

配信元: & Premium.jp

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