成人向け漫画は、根強い人気を誇る文化だ。

少しばかり「イロモノ」扱いを受けがちだが、現在メジャーな作家も、元々はオトナ向け出身であるケースも見られるほど、この世界は可能性にあふれている。
平成後期より紙媒体の衰退が目立ち、成人向け漫画雑誌も大幅に数は減ってしまった。しかし、デジタルに移行して復活を遂げたり、商業から同人誌に切り替えて再度盛り返すなど、形を変えて存在し続ける。
「過去があるから今が作られた」なんて言葉の通り、成人向け漫画の世界には歴史がいっぱい。当時の盛り上がりは現代へとつながっており、「エロ」はサブカルチャーを支える軸の一つなのだ。
過去と現在における成人向け漫画の傾向は
「成人向け」で描くことはただ1つ......と誤解をされがちだが、コメディ、SF、ミステリーテイストに演出するなど、性描写以外の部分にこだわりを発揮する作家も多い。
時代が進むにつれてカテゴリーが増加し、「男性の心を刺激するための描写や設定を含めた、ストーリー性の高い漫画」という興味深い作品が次々と登場する。いくら成人指定といえど、漫画は芸術。今も昔も読み物としてしっかりと作られているからこそ、読者の胸をときめかせるのだ。
成人向け漫画雑誌のブームは80年代以降に沸き起こり、ありとあらゆる作品が世に放たれた。
現在ほど趣味嗜好が細分化されていない時代だが、「学生」や「奥様」「少女」は以前よりメジャーで人気の高いジャンル。内容としては「サブカルチャー」を体現するかのようなクスリと笑えるマヌケなものなど、とにかくバラエティに富んでいた。
画風は古いが80年代~90年代より「アキバ系萌えイラスト」もすでに存在していたほか、某有名漫画家のような生っぽい美女を描く作家も多い。画風の好みは割れても、成人向けは女体の構図などかなりの画力が要されるため、昔からハイレベルな世界であったことは確かだ。
現代に関してはイラストが「今風」なことと、ジャンルの増殖や公開媒体が広がったことが何よりも大きい。全体的な傾向はほぼ一緒だが、漫画、映画など「作品」に触れる人が増えたせいか読者の目が肥えており、画力や構成力は昔以上に求められている。
とはいっても、根本はほとんど変わっていない。どれだけ読者の評価が厳しくなろうが、ジャンルが増えようが軸となる部分はブレることはない。過去の作家、そして編集部が作り上げてきた世界観は未だ健在なのかと思うと、「エロ」も本当にバカにしてはならない立派な文化と言えよう。
成人向け界隈での「漫画」の存在感
成人向け界隈はビデオ、ドラマや映画、漫画、小説、最近はASMR(ボイスドラマ)など、ありとあらゆるものが展開されており、その中でも読み物の存在は偉大だ。これは私個人が思っているだけではなく、実際に商業として成立させるにも漫画は常に注目を浴びている。
正直なところ、ビデオやピンク映画はここ十数年で苦戦を強いられている状態だ。無料動画や転載が災いして売り上げが伸ばしづらいほか、人間が挑戦できることの幅は限られ、少々ネタの「出尽くした感」が否めない。良くも悪くも、ビデオも映画もマンネリ化により落ち着いてしまった。
それに対して漫画は、可能性が無限大である。実写では難しい内容も二次元ならお手の物で、ビデオよりも安価で手に入る。SNSなどでも気軽に閲覧できる点や、近年のアニメ好き人口の加速も影響して、「成人向けビデオは全くだけど、漫画はスキ」というタイプが熱狂的に支持をする。
非常に人気が高いので、ここ数年は漫画→実写ビデオ化などもよくある流れだ。二次元から三次元は一般の映画やドラマでも主流となり、成人向け界隈でも同じことが起きている。この世界での漫画は大多数から「市民権」を得ている、と断言しても良いだろう。
成人向け界隈での漫画文化は衰退を知らず、商業・同人問わず参入者も多い。ちょっぴりウラの話をすると、前者も後者も収益化がしやすく、おまけにファン獲得も狙えるとなると、飛び込む人々が絶えないのもうなずける。
「人間の三大欲求の一つ『性欲』を刺激するからこそ成人向け漫画の支持率は高い」なんて見方もできるが、きっと理由はそこだけではない。イラスト、作風、内容など作家の強いこだわりが発揮され、人々の心を打つ魅力に溢れることが、文化を盛り上げるエッセンスなのだと、私は考察する。
根本を変えずに継続することがもう、素晴らしい。ビデオ同様、日陰の商売である点は確かだが、長年受け継がれるサブカルチャーの一つとして衰退してほしくはないと、勝手ながら思ってしまうのだ。
【プロフィール】
たかなし亜妖/2016年にセクシー女優デビュー、2018年半ばに引退しゲーム会社に転職。シナリオライターとして文章のイロハを学び、のちにフリーライターとして独立する。現在は業界の裏側や夜職の実態、漫画レビューなど幅広いジャンルのコラムを執筆中。