「美しい」を見つめ直すためのヒントを探った、&Premium143号(2025年11月号)「美しい、ということ」より、画家・平松 麻さんの感性に響いた作品とシーンを特別に紹介します。
鎖骨の窪みに手を添えて、揺れる心を落ち着かせる。

主人公の男性は、去年マリエンバートで出会い、迎えに来ることを約束していたデルフィーヌ・セイリグ演じる女性に社交界で再会。彼女はその記憶がないような、曖昧な態度を示します。男性は彼女を連れ出すため、過去の記憶を持ち出して対話を試みますが、女性は一線を越えないための言動を繰り返し、静かな抵抗を示す。それが、手を鎖骨の窪みに添えるしぐさです。彼女にとっては、心の揺れを振り払い、平常心を保つためのお守りのようなものなのかもしれません。そんな無意識のふるまいが、他者を惹きつける魅惑的なスパイスにも思えて。二人の関係が動く、ひとつのきっかけになっているのが印象的です。
去年マリエンバートで監督 アラン・レネ
戦後世界文学にムーブメントを巻き起こしたアラン・ロブ=グリエの脚本を絵画的な映像美に昇華したモノクロフィルム。シンメトリックに設計された庭があるバロック様式の城館に滞在する富裕層たち、社交界にいる二人の男女の真実と幻想、揺れ動く感情を詩的に描いた。Last Year in Marienbad / 1960 / France, Italy / 94min.
歩み寄りのしるしとして、一杯の水を手渡す。

多様性や男女のふるまいの違いについて、立ち止まって考えさせられる作品です。西部開拓のため砂漠を歩く3家族は、旅の途中で先住民に出会う。ガイドの男性はその男を野蛮な部族だと決めつけ抹殺すべきと言いますが、女性のリーダー的存在のエミリーは、水を分け与え、靴のほつれを修繕します。私は、本当の意味での多様性とは、受け入れ難いネガティブなものを理解しようとすることだと思っていて。その価値観を持ち合わせた女性の、勇気ある行動に美しさを感じました。自分と異なる人間に一歩踏み込んで関わるのは簡単なことではないですが、それが新たな一歩を切り拓く力になり得る、と希望を持ちました。
ミークス・カットオフ監督 ケリー・ライカート
実在した移民ガイドのスティーブン・ミークの実話を基にした、1845年のアメリカ西部開拓時代の移民の物語。新天地を目指し移住の旅に出た3家族が、近道を知っているというガイドのミークを雇う。途中、彼を信用できなくなり、過酷な旅に追い込まれていく。Meek's Cutoff / 2010 / USA / 103min.

