相手の”本気”を引き出す、ストレートな向き合い。

想いを真っすぐに伝えられない性格が原因で離婚した厚久と奈津美。その後、とある事件で奈津美が命を落としたことを知った彼は、残された娘に「一緒に暮らしたい」という言葉を伝えるため、親友の武田に車を出してもらいます。到着後もなかなか一歩を踏み出せない厚久に、武田はぐっと顔を近づけて目を合わせ、「俺がしっかり見ててやるから、本当のことを言うんだ、本当のことを言うことが大切なんだ」と熱弁。相手を鼓舞するための本気の言葉や体を強くゆさぶる姿からは迸る友愛が滲み出ていて、圧倒されました。ラスト5分は映画であることも忘れて観入ってしまい、気づけば号泣していました。
生きちゃった監督 石井裕也
石井裕也監督が脚本やプロデュースまで手がけた意欲作。中学時代からの仲の厚久(仲野太賀)、武田(若葉竜也)、奈津美(大島優子)。のちに厚久と奈津美は結婚し、娘を持ってからも3人の仲は続いていた。しかし、奈津美が見知らぬ男と抱き合う場に遭遇する。All the Things We Never Said / 2020 / Japan / 91min.
“美しいふるまい”には、その人の オリジナリティが滲んでいる。
私は日常的に映画を観るのが好きで。心を動かされる作品に出合うと、エネルギーが湧き、創作意欲が掻き立てられます。鑑賞後は、自分なりの印象を記録に残し、後からいつでも内容を思い出せるようにしています。
自分が触れてきた作品を振り返ってみると、多様な「ふるまい」が描かれていることに改めて気づきました。例えば、思わず見惚れてしまう美しい所作だったり、はたまた、対人関係における、人を思いやるときの心遣いだったり。自分の立ち位置や価値観、プライドを表すもの、状況を切り拓くための決定的なメッセージになり得るものもある。
なかでも、私が特に美しいと感じるふるまいとは、日本と西洋の作品では文化的背景の違いから少しのズレやグラデーションが生じますが、そのどちらにも共通する、人間関係をよい方向へ動かすための行動。決して作為的ではなくて、その人から自然と出たオリジナルの表現や手触りであるということが感じられると、さらに心に響くような気がします。
映画は多様な人間関係を見せてくれます。誰かの人生を客観的に見るからこそ、今までは意識していなかったような素敵なふるまいに気づくことができる。ふるまいとは、関係に小さな明かりを灯すということなのかもしれません。その明かりを頼りにして、関係が切り開かれていく様を美しいと感じます。
平松 麻画家
油彩画家。1982年東京都生まれ。自身に内在する景色を描くのみならず、挿画や執筆も多数手がける。10月23日〜『SEIZAN GALLERY』(NY)、11月1〜24日『evameva yamanashi』(山梨)で展覧会開催予定。
illustration : Shigeo Okada text : Seika Yajima
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洗練された大人が選ぶのは、心がときめく「美しいもの」や「美しいこと」、そして自分らしい美しい生き方ではないでしょうか。いまの時代、効率や成果が大切にされる一方で、夕陽の輝きに見とれたり、花のひらく姿に心を澄ませるといった感覚が、少しだけ後回しにされているようにも感じます。けれど「美しい」と感じる心こそが、私たちの日々を本当に豊かにしてくれるのだとは思います。この一冊では、住まい、装いや日用品などのもの選び、ふるまいや言葉、そして生き方にいたるまで、Better Life の礎となる「美しい」を見つめ直すためのヒントを探ってみたいと思います。
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