みなさんは「転売ヤー」に苦しめられた経験はありますか?
コロナ禍ではマスクに、Nintendo Switch、PlayStation5など様々なものを買い占めては、世間のヘイトを集める「転売ヤー」たち。
『転売ヤー 闇の経済学』(著:奥窪優木 新潮新書)など彼らを取材・研究対象とする書籍も出版される始末。
中を見る限りでは彼らには彼らなりの主張があるようですが、どうにも賢い生き方には思えません。
それは、ステークホルダーになりきらないが故の、ゲームチェンジャーに対する耐性の欠如です。
先日、これを象徴するような事件がありました。
備蓄米を800円上乗せしながら転売した男女2名が、国民生活安定緊急措置法違反の疑いで書類送検されたのです。
結局不起訴になったものの、最終警告であるように見えてならない。
今回は「転売ヤー」のビジネスモデルがもつ致命的な欠陥について考えます。

◆「手に入らない人へ配る」という大義名分
端的に言えば、従来の販路を形成している各業者は共生関係にあるのに対して、転売ヤーは寄生関係にあると考えられるため、立場が弱い。小売業者がいる理由と転売ヤーの言い分は、確かにある程度重なるところがあります。
すなわち、生産・製造者から商品を手に入れるためには、ある程度広大な地域ごとに存在する卸業者を経て、さらに細かい領域を販売対象地域とする小売店の存在が不可欠です。
ここの中間業者が増えるほどに、中途手数料は増加し、小売価格は上昇していくことになります。
そして、転売ヤーの言う「まとめて確保して、手に入らない人へ配る」という大義名分(のように見えるもの)は、一定筋が通っているように感じる。
◆スムーズなビジネスを阻害する存在
しかし、ここには重大な問題があります。そもそも上流の生産・製造業者は末端の小売業者が確保する数をコントロールしながら生産量を決めている。
ここには「転売ヤー」が想定されておらず、それだけで十分な流通が可能であるからこそ、その量が生産される。
ここで転売ヤーが乗り出すことは「生産→卸→小売り→消費者」の図式に、計算途中で必要にならなかった余計なプロセスを追加することにほかならず、ただ全体の負担を増やしていくだけの存在でしかありません。
売れるからよいわけでもなく、もはや憎まれるべき存在と化した「転売ヤー」がかかわった商品というだけで、生産・製造元には「転売の餌食になるような販路を見直せ」と理不尽なクレームが飛ぶようになります。
販路全体の見直しや、転売対策のための余計なコストなど、本来であればスムーズに行ったはずのビジネスが、うまくいかなくなる。
自分だけが良い思いをして、全体に悪影響を与えるのはまさに「寄生虫」でしょう。

