さまざまな機関と協力しながら漁業の課題を1つずつ解決していきたい
――助成金を活用して、特に効果を感じた部分はありますか。
三野:まず大きかったのは、漁業者自身が「自分の漁場の環境の変化」を継続的に把握できるようになったことです。これまで関心はありつつも取り組めていなかった部分に、助成金を活用することで取り組めるようになり、より真剣に、より多角的に漁業活動を考えられるようになったと感じています。
もう1つは、専門家とのつながりが生まれたこと。里海づくり研究会議に所属する元大学教授の方や、東京大学大気海洋研究所の先生とも連携していただいています。
漁業者単独では、県の水産部局や近隣の大学関係者と関わることはあっても、全国で漁業者と科学者が直接意見交換を行う機会はほとんどありませんでした。現地のヒアリングでは、漁業者と科学者が一堂に会します。漁業者が抱える課題を言語化し、専門的な視点から整理・解明していただけるのは非常にありがたい経験だと思います。
特に今年度現地ヒアリングを行った滋賀県は、アユをはじめとする漁業資源の減少が深刻な問題となっています。琵琶湖にはいくつかの研究機関がありますが、漁業者が初めて科学者と議論する機会を設けることができました。
普段接点のない研究者と漁業者が全国規模で協働する取り組みは、これまでに例の少ないものです。助成金があったからこそ実現できた成果であり、大きな意義を感じています。
――最後に本プロジェクトの今後の展望を教えてください。
三野:本プロジェクトの大きな目標は、漁業者が抱える課題を少しでも解決につなげること、そして「どうすれば自分たちの生業を守り、持続できるのか」という対応策を1つでも多く見出すことにあります。
従来も、大学の先生と接点を持つ機会はありましたが、専門分野に直結する相談先が常にあるわけではありませんでした。今回連携している里海づくり研究会議は、沿岸沿岸環境関連学会連絡協議会(外部リンク)の事務局も担っていたことから、多くの研究者とのネットワークを有しています。また、東京大学の先生にも幅広い分野から参画していただくことで、漁業現場で起こった事象を専門的に分析する体制が整いていただきました。
今後もこうした研究者や団体との協力を深めながら、現場の困り事を1つずつ解決し、持続可能な漁業の実現につなげていきたいと考えています。
日本財団担当者から見たプロジェクトの魅力
本事業では日本で初めて全国規模で漁業者と研究機関が連携し、刻一刻と変化する海洋環境を理解し、対応することを目的に始まった事業で、新たな水産業のモデルをつくることを目指している点が評価され、助成が始まりました。
現在2年目ではあるものの、対象地域や参加漁業者も増え、今後より一層のデータベースの充実とそれに伴う各海域での環境変化に応じた対策の立案が期待されています。
日本財団から全国漁業協同組合連合会への助成額
4,203万円(2025年度)
撮影:佐藤潮