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なぜ、里親・養子縁組制度が日本に普及しないのか?

※この記事は2019年2月12日に公開した記事を再編集しています

「里親」や「特別養子縁組」と聞くと、どこか遠い言葉に感じる方が多いかもしれない。しかし生みの親と離れて暮らす子どもが、日本には約4万2,000人(※)いる。そのうち8割近くが、乳児院や児童養護施設で生活を送っているという。

これは、先進諸国と比べても圧倒的に多い。里親委託率だけでいえば、アメリカが82パーセント、イギリスが73パーセントであるのに対し、日本が25パーセント(※)にとどまっている。

2020年に民法が改正され、法律的に養子となる子どもと実の親子に近い関係を結ぶ「特別養子縁組制度」の対象年齢が、6歳未満から15歳未満に引き上げられた。15~17歳でも一定の条件下で縁組が認められるほか、実親の養育が著しく困難または不適当な場合には実親の同意がなくても児童相談所が家庭裁判所に申し立てができる制度が創設された。これにより、家庭復帰の見込みのない乳幼児を特別養子縁組につなげる機会が広がった。

そこで、里親制度や特別養子縁組制度の普及におけるこれまでの日本の遅れの原因と、改善の糸口を探るべく、日本財団国内事業開発チームの高橋恵里子さんに、2017年に行われた「『里親』意向に関する意識・実態調査」(別タブで開く/PDF)の結果とあわせて話を伺った。

子どもにとって、里親制度や特別養子縁組制度の必要性とは

そもそも「里親制度」や「特別養子縁組制度」とは何か。何らかの理由で実親と離れて暮らす子どもたちを家庭に迎え入れることには変わりないが、制度によって親子の関係性に違いがある。以下を確認してみよう。

里親(養育里親)制度:子どもを一定期間預かり育てること。里親と子どもの間に法的な親子関係はなく実親が親権を維持する。子どもの対象年齢は原則0~18歳まで。月々9万円+養育費約5〜6万円の補助(※)、そのほか教育費、医療費などの支援がある。

  • ※2025年4月時点の費用

特別養子縁組:原則15歳(※)までの子どもを、育ての親が法律上も子どもとして家族に迎え入れること。親権のほか相続権や扶養義務などは全て育ての親に移り、生みの親との法的な親子関係は残らない。

  • 2020年4月に改正

ちなみに、家系存続のためなど成人にも広く使われる養子縁組は「普通養子縁組」で、子どもの年齢制限は設けられておらず、特に保護を必要とする子どもが、実子に近い安定した家庭を得るための制度である特別養子縁組とは異なる。

図表:養子縁組と里親制度の違い

インフォグラフィック:養子縁組と里親制度の違い 子ども達があたたかい家庭で育つために生みの親のもとで育つことができない子どもたちの数は 42,000人。最新の動きでは、2017年4月に施行された改正児童福祉法で、家庭と同様の養育環境のなかで、継続的に、子供が養育されるよう養子縁組や里親、ファミリーホームへの委託が原則となった。 1. 養子縁組:養子縁組には特別養子縁組と普通養子縁組の2種類がある。特別養子縁組では、生みの親との法的な親子関係が消滅し、育ての親が法的な親子関係及び親権を持つ。子どもの年齢は原則として15歳未満。原則離縁はできず、一生親子である。国からの補助金は0円。普通養子縁組では、生みの親・育ての親共に法的な親子関係が存在し、親権は育ての親が持つ。子どもの年齢制限はない。ただし、養親より年上は認められない。離縁が可能である。国からの補助金は0円。 2. 里親:里親は生みの親が親であり、親権を持つ。里親(育ての親)との法的な親子関係はない。子どもの年齢は原則として18歳まで。途中で生みの親元へ戻るか、18歳で自立する。国から里親手当として月額9万円と養育費が補助される。
養子縁組と里親制度では、親子関係、年齢制限などさまざまな違いがある

さて、そんな里親制度や特別養子縁組制度はなぜ必要なのだろうか。

「子どもにとって、生活の場を安定させるのはとても大事なことです。親、もしくは親代わりの特定の大人に受け入れられ、関係を築くことで、安心感を得られる。そうして自己肯定感を得ることで、(精神的に)健康な、人を信頼できる大人に育つことができるのではないでしょうか」と高橋さん。

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日本財団で子どもの家庭養育の普及に努める高橋さん

家庭環境と子どもの発育は大きく関わっている。子ども時代に虐待を受けると脳が萎縮してしまう、というのは有名な話だ。さらに親がアルコール依存症であるなど、健全とは言えない環境で育った子どもは、将来的に健康や寿命にも悪影響を及ぼすとの研究結果も出ているそう。また中には、生まれて間もない頃から何らかの理由で生みの親と暮らすことができない子どももいる。そういった子どもたちを保護するのが、乳児院や児童養護施設だ。

「施設が必要ないということではありません。たとえば思春期で、今さら別の家庭に入っても気を使ってしまうので、児童養護施設での生活を望むこともあるでしょうし、施設でのより集中的なケアを必要とする子どもいます」と、高橋さん。しかし生まれたばかりの赤ちゃんや小さな子どもとなると、特定の大人と愛着関係を築く時間が必要だ。国連のガイドラインでも、実親の元に帰れないのなら、養子縁組をしてずっと続く家庭に入ること、それが難しければできる限り里親のような家庭的環境で育つことを目標としている。

国を挙げて子どもたちと向き合い、権利を尊重するべき

日本には家庭で暮らせずにいる子どもがたくさんいる。しかしその実態を知る人や、実際に養子縁組制度や里親制度を利用する人が日本では非常に少ない。「血縁を重んじる文化があるから」などその原因には諸説あるが、そもそも制度自体を知らない人が多いことが問題のようだ。アンケート調査によると、里親制度については「まったく知らない」「名前を聞いたことがある程度」と回答した人が6割以上だった。

その理由の一つが、国が里親の制度普及ににお金を使ってこなかったことではないかと高橋さんは話す。

「例えば児童養護施設に保護された子どもの約7割が里親と暮らすイギリスでは、普及活動が大々的に行われています。テレビやラジオCMを放送したり、ポスターを作ったり、さまざまな方法で里親のリクルートをしたりと、時間とお金をしっかりかけています。また、里親の研修や支援をする民間機関にも多額の補助金を出しています」

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「児童福祉が発展している国々から学ぶことは多い」という高橋さん

また、日本は法律的に親の権利を重視する傾向が強いことも制度が普及しない原因の1つと言えるようだ。「親の権利が守られていること自体は悪いことではありませんが、時に子どもの権利を奪う原因になります。親が同意しないという理由で、長期間一時保護所で生活していた、という子どもの話を聞いたこともあります」と高橋さんは言う。

2023年4月にスタートした「こども基本法」でも、家庭養育を優先とする原則とともに、子どもの最善の利益を優先すること、子どものが自分に直接関係することに関して意見を表明する機会が保障されることが定められた。子どもは安心でき、安全で愛にあふれる家庭で育つことが重要であると社会が認識を深めていけば、里親や特別養子縁組も、もう少し当たり前のこととして普及していくかもしれない。

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