◆国民的妹キャラ時代
翌2003年からはドラマにも出るようになり、4作目のBS-TBS『ケータイ刑事 銭形零』(同)で早くも主演する。13歳だった。ただし、女子中学生が携帯電話を使って事件を解決するというマニアックな深夜ドラマだったため、俳優としての評価は難しかった。一方で知名度は上がっていった。2004年から3年間、CM「三井のリハウス」のリハウスガールを務めたからだ。宮沢りえ(52)、蒼井優(40)の後輩にあたる。記憶にある人も多いはず。当時のリハウスガールはNHK大河ドラマで子役をやるより知名度アップに役立ったくらいだ。
俳優としての評価を固めたのは初主演映画『天然コケッコー』(2007年)。全校生徒が6人しかいない島根県の小中学校が舞台だった。夏帆の役柄はその中の中学生・そよ。おさげ髪でちょっと天然ボケの少女だった。
その学校に東京からイケメン少年が転校してきた。そよは少年に恋をする。どこにでもありそうな話だが、そよにとっては特別な初恋物語が始まった。脚本はNHK連続テレビ小説の傑作『カーネーション』(2011年度下期)の渡辺あや氏(55)が書いた。
この映画は毎日映画コンクールで日本優秀映画賞を獲るなど高く評価された。夏帆自身も日本アカデミー賞新人俳優賞などいくつもの賞を得た。その後、マスコミはこぞって夏帆の演技を賞賛するようになる。
よく誉められるのは「どんな役柄でも演技が自然でわざとらしさがないところ」、「陰りのある女性も明るい女性も演じられるところ」。映画記者によると「最初からずっとうまかった。演技で苦労しているという話を聞いた記憶がない」という。
◆清純派からの大転換
「アクションが吹き替えなしでやれるところ」も評価されている。ドラキュラ族のボス格に扮した主演映画『東京ヴァンパイアホテル映画版』(2017年)でもキレキレの立ち回りを見せた。「突出している存在に見えないが、実際には突出している俳優」(映画記者)しかし、夏帆本人はいつも「ずいぶん長いこと役者をやっていますが、いまだに芝居が全然分からない」(朝日新聞夕刊2020年2月14日付)などと控え目。謙遜やポーズでなく、本音らしい。いくら誉められようが、キャリアが長くなろうが、偉そうにならないところも芸能人臭の薄い一因か。
濡れ場を断るようなこともしない。芸能界の光と影が描いた映画『ピンクとグレー』(2016)では中島裕翔(32)との激しいベッドシーンがあった。抑圧された主婦に扮した主演映画『Red』(2020年)では元恋人で不倫相手の妻夫木聡(44)との濃厚な濡れ場を演じた。
ヤンキーや連続殺人犯なども演じた。イメージを守ろうとは考えていないようだ。夏帆はこう話している。
「純粋に、やりたい役か、役に責任が持てるかだけ。もちろん、いつも同じ場所にいてはダメ。何か新しいことを、というのは常に考えていますね」(読売新聞夕刊2019年10月9日)
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』にも夏帆にとっては新しさがある。デビュー12年の竹内との共演は意外や初めて。ラブコメ専門枠に近いTBS火曜午後10時台のドラマでの主演も初。そもそも夏帆はラブコメ自体が少ない。
夏帆はショートカットというイメージが定着している。今回もそう。だが、23歳だった11年前まではロングだった。髪を切ったころから役柄の幅が飛躍的に広がった。
芸能界で仲が良い友人は鈴木杏(38)や柄本時生(36)ら。やっぱり芸能人臭が薄く、うまい人たちばかりなのである。
【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

