◆国道をふらつく一台の車

「休日の午後で、道路もそれほど混んでいませんでした。国道を走っていたら、目の前の車が急に中央線をはみ出したんです」
その車は、ふらふらと蛇行しながら、時折ブレーキを踏んでは再び加速するという運転を繰り返していたという。
「最初は車の調子が悪いのかなと思いました。でも何度も繰り返すので、“運転している人に問題があるのかもしれない”と思ったんです」
父親は冷静に距離を保ちながら、「あの車、少し危ないな」とつぶやいた。その後も不安定な動きが続いたため、信号待ちで停車した際に、田村さんは意を決して車を降りた。
◆“急いでいるだけ”が招いた危険運転
窓をノックして声をかけると、運転席には70代くらいの女性が座っていたという。
「さっきから危ない運転をされています。体調は大丈夫ですか?」
と田村さんは聞いた。すると女性は笑いながら、「用事があるから、急いでるんです!」と答えたそうだ。
「その言葉に背筋が冷たくなりましたね。女性は危険な運転を自覚していなかったんです」
信号が青に変わると、その車は再びふらつきながら走り出した。
「父が、『このままじゃ危ない。警察に通報しよう』と言い、私に動画を撮るように指示しました。冷静な判断だったと思います」
数分後、再び停車したタイミングで父親が説得に向かった。女性を近くの駐車場に誘導し、ようやくエンジンを切らせることができた。
「夏だったのにエアコンもつけていなくて、車内がものすごく暑かったです。父が『判断力が鈍っていたんだろう』と話していました」
その後、警察が到着。田村さんの撮影した映像を確認した。女性は最初こそ否定していたが、自分の運転を見せられて“ようやく危険を認めた”という。
「家族の方が迎えに来て、無事に帰っていきました。あのとき止めていなければ、誰かを巻き込んでいたかもしれません」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

