一方で、教育の現場や報道の現場など、その時代における一定の正しさに基づいて発信しなければならない分野では誤用が問題となることもあります。では、現在ではどのような言葉で誤用が広がっているのでしょうか。すでに誤用が定着しているように感じる言葉も含めて、その一部を取り出してみましょう。
●誤用されがちな言葉一覧
以下、左側が「本来の意味」、右側が「現在、比較的多く使われている意味(誤用)」です。
「御の字」 ありがたい とりあえず納得する
「姑息」 一時しのぎ 卑怯な
「さわり」 話の要点 話の最初の部分
「潮時」 ちょうどいい時期 物事が終わる時
「なし崩し」 少しずつかたづけていくこと なかったことにすること
「破天荒」 誰もなし得なかったことをすること 豪快な様子
「役不足」 本人の力量に対して役目が軽すぎること 本人の力量に対して役目が重すぎること
「確信犯」 本人の政治的・宗教的に正しいと信じることに基づく犯罪行為 悪いと知っていて行われる犯罪行為
「憮然」 失望してぼんやりしている様子 腹を立てている様子
「おもむろに(徐に)」 ゆっくりと すばやく
「ぞっとしない」 おもしろくない 恐ろしくない
「砂をかむよう」 おもしろみがない 悔しくてたまらない
「割愛する」 惜しいと思いながらもやむを得ず手放す 不要なものを省略する
「奇特な人」 特に優れている人 奇抜な人
「失笑する」 笑いをこらえきれずに吹き出す あきれて笑う
「にやける」 なよなよとしている うすら笑いを浮かべる
「穿った見方」 本質を捉えた見方 疑ってかかるような見方
「気が置けない相手」 気配りや遠慮をしなくてよい相手 気配りや遠慮をしなくてはならない相手
「琴線に触れる」 感動をあたえること 怒りを買うこと
「敷居が高い」 相手に不義理をして行きにくい 高級(上品)過ぎて入りにくい
「檄(げき)を飛ばす」 (文書で)人々を呼び集めたり同意を促したりすること 激励すること
「流れに掉(さお)さす」 邪魔をする うまくいくようにする
「情けは人ためならず」 親切な行いがいつかは自分に戻ってくる 親切はその人のためにならない
「まんじりともせず」 眠らずに じっと動かずに
「やぶさかではない」 よろこんでする 仕方なくする
●誤用は間違いか、それとも進化か
探せばもっとあるでしょう。ではこういった言葉はどのようにして変化するのでしょうか。たとえば明治大学文学部・小野正弘教授は、大学のウェブサイトで「気の毒」という言葉を挙げてその意味の変化を紹介しています。これによると「気の毒」には「気の薬(きのくすり)」という反対語があり、こちらは自分にとって「気分が良くなるもの」について使われていたそうです。「気の毒」「気の薬」は自分にとって「毒か薬か」という基準で使われていたわけですが、次第に毒のような状況にある人のことを指して「気の毒」と言うようになりました。
つまり、「わがこと」と「ひとごと」のどちらかが前に出てどちらかが後ろに下がる意味変化が起こっているとのこと。このことを「前景化」「後景化」と読んで分類するそうです。なぜそうなったのか、という点については研究中とのことですが、なにか現代にそう変化する社会的背景や心理的背景があるのかもしれません。
こういった誤用によって意味が揺らぎ、コミュニケーションが円滑にいかない場面もあるかもしれません。ただし多くの場合、その言葉が使われる文脈から判断したり、不明な点は相手に確認したりすることで私たちは情報を共有可能なのではないでしょうか。大事なことは、正しさに依ることよりも、お互いに決めつけず、コミュニケーションをとりながら意味を擦り合わせていくことなのかもしれません。
<参考サイト>
誤用?慣用?「グレーな」日本語との付き合い方|川村インターナショナル
https://www.k-intl.co.jp/blog/B_220713A
ライターなら絶対に知っておくべき、誤用されやすい日本語16選!例文と共に紹介|株式会社takeroot
https://takeroot.co.jp/2020/06/06/wrong/
「カッコよすぎて無理!?」 いま、日本語研究者が気になる言葉とは|Meiji.net(明治大学)
https://www.meiji.net/feature/202310_01
