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地域と障害者をつなぐ——社会福祉法人たからばこ

不慣れなIT操作と格闘。行政との連携が成功の鍵に

●助成金の申請から採択されるまで

――実際の申請準備について、どのような準備をされましたか。

康博:事業構想は研究会を通じて3年ほど練り上げていたため、申請書の内容をまとめること自体にさほど困難は感じませんでした。それよりもIT操作に不慣れな60代の私にとって、最も大変だったのは全ての手続きをオンラインで行わなければならない点です。

手持ちのパソコンもスペックが不十分だったため、最初はかなり苦労しましたが、パソコンの買い換えを依頼した地元の事務機器販売店が事業を応援してくれて、朝7時に来て操作のサポートをしてくださったこともありました。

また、CANPAN(※)(外部リンク)への登録の仕方が全く分からなかったとき、日本財団のサポートセンターに電話すると、登録から申請書類まで非常に親切な指導をしていただきました。これらの協力がなければ、申請期限に間に合わなかったかもしれません。

  • 「CANPAN」とは、日本財団が運営する公益事業コミュニティサイト。助成申請の際には団体情報の登録が必要であったが、2024年10月以降は、日本財団 助成ポータルへの登録に移行

――申請書類の作成で、工夫された点はありますか。

康博: 実際に書きこみながら申請内容を整理できる「申請準備ワークシート」という日本財団から提供されるツールを活用しました。A3用紙に必要事項を記入していけば、正式な申請書類に必要な内容が網羅されるので、あとは入力するだけの状態になります。

まとめるうえでは県との協働事業としてのゴールを意識して、私たちの構想と県が人材育成事業にかける思いを丁寧にすり合わせることに重点を置きました。

――申請後、採択されるまでの経緯はスムーズでしたか。

康博: 実は、申請後の視察の場で財団側との議論がありました。私たちは入居者の半分を強度行動障害のある方、半分をそうでない方、という混合型のホームを提案していましたが、日本財団の調査によると「全員を強度行動障害のある方にした方が効率的」という事業所が多く、なぜそうしないのかを問われたのです。

単に助成金を出すのでなく、事業の在り方に真剣に向き合い、より良い成果を追求する姿勢に「さすがだな」と感じましたが、私たちが目指していたのは、あくまで強度行動障害のある方が地域と交流することを目指すグループホームです。最終的には、その考えを理解いただき、採択いただくことができました。

●助成金活用後の対応と成果

――助成金が支給されるまでの流れについて教えてください。

康博:建設事業は全工程が完了した後に建設費が入金されるシステムになっています。私たちの場合は、2024年4月の採択決定から建設工事完了後の2025年5月の入金まで、約1年かかりました。その間はこちらで資金を一時的に立て替える必要がありましたから、資金繰りの計画が重要でしたね。

また、日本財団の助成金は建設過程のさまざまな段階に応じて必要書類を提出する仕組みになっています。消防署の証明書など、1つの工程で4、5種類の書類提出が求められることもあるので、その準備と提出に思った以上に時間を要しました。

――助成金を活用して良かったのはどういう点でしょうか。

康博:資金面での効果は絶大でした。国の補助金は県の補助も合わせて対象経費の4分の3が上限ですが、日本財団は10割補助(※)でしたので、実質的には約1.3倍の支援をいただいたことになります。しかし近年の資材高騰や人件費上昇によって、建設費も設計当初から1.5倍に膨らんでいましたので、財団の手厚い支援がなければ事業の実現は困難だったと思います。

直美:助成金申請をきっかけに、県と連携できたことで、発達障がい者支援センターの地域支援マネージャーとの協働が非常にスムーズになりました。これまで個別に相談していた専門的な支援方法について定期的に指導を受けられるようになり、地域全体での支援の質向上にもつながっています。

  • 日本財団の補助率は、原則、助成対象事業費の80パーセント以内ですが、事業を行う団体の性格、事業の性質等を勘案し、例外的に80パーセントを超える補助率を適用する場合があります
「ななほし」を建設するにあたって行われた地鎮祭の様子。画像提供:社会福祉法人たからばこ
 
建設中の「ななほし」。画像提供:社会福祉法人たからばこ

地域に根ざした支援モデルの確立を目指して

――今回の事業を通じて、今後どのような展望をお持ちでしょうか。

直美:今後も地域との連携が不可欠だと考えています。自分たちだけの体制に依存していては、何かあったときに対応できないからです。

例えば、コロナ禍で私たちの施設が閉所した際、他の事業所と連携していたことで利用者さんを受け入れていただくことができました。私たちの活動だけでは限界がありますので、障害のある人を地域全体で受け止められるシステムを構築していきたいですね。

康博:そういった意味では大都市部のように資金や人材が潤沢ではない、私たちのような地方都市にある中規模法人でも強度行動障害のある方への対応が可能だ、ということを実証したいです。まずは、「ななほし」を通じて一人でも多く地域移行の成功実績をつくることができれば、地方にある他の事業所も「私たちにもできる」と思っていただけるかもしれない。

この助成金事業をきっかけに、グループホームや行動援護(外出支援)の1つのモデルケースになれたら、と考えています。

地域との関係で印象的なエピソードがあります。感覚刺激を好む利用者の方にカスタネットを持って散歩してもらっているのですが、最初は近所の子どもたちから「カスタネットおじさん」と呼ばれていました。しかし、子どもの居場所活動をしている方を通じて子どもたちとの交流が生まれたことで、「名前も知らない不思議な人」から「カスタネットが好きな○○さん」と、顔と名前の分かる関係性へと変化していったのです。これは非常に意義深いことです。

入所施設では施設内で行動が完結してしまいますが、たからばこが目指しているのは、地域の中に「ちょっと変わった人もいる」ことが自然に受け入れられる社会です。強度行動障害のある方が自分のまちのグループホームで暮らし、日中活動に通いながら、地元の人々との接点や交流をつくり出していけたらと思います。

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