
トランプ政権の関税問題など、国際情勢をきっかけに税金がニュースになることは珍しくありません。しかし、私たちの生活に影響を与える税金は、それだけにとどまりません。ゴルフや温泉旅行、そして海外との資産のやりとり……。実は、そうした身近な行動からグローバルな経済活動まで、あらゆる場面に税金のルールは張り巡らされています。本記事では、梅田泰宏氏の著書、『これだけは知っておきたい「税金」のしくみとルール 改訂新版11版』(フォレスト出版)より、いまさら聞けない税金のしくみを紹介します。
第二次トランプ政権下で注目される「関税」とは?
税制改正に関係なく、近年ニュースを賑わしている税金が「関税」です。令和2年には日米貿易協定が発効して、関税の引下げ・撤廃が話題になったと思ったら、令和7年にはアメリカのトランプ大統領により各種の関税が発効して、連日のように報道されました。
関税は、輸入品・輸出品にかけられる税金ですが、今日では輸入品にかけられる税金のことをいうのが一般的です。輸入品に税金をかける目的としては、国産品の価格競争力を守ることや、国内産業を保護することなどがあります。
これを利用して、アメリカ産の製品を米国国内で売りやすくし、生産と雇用を取り戻すとしたのがトランプ大統領による各種の関税です。
一方、大規模な関税の引上げは貿易が停滞して、世界的な景気の悪化につながりかねません。逆に、日米貿易協定のように関税を引き下げたり、撤廃したりすると、輸入品の輸入価格が安くなることから小売価格も安くなり、家計は助かって貿易も盛んになり、経済は活性化します。
図表の上は、日米貿易協定で関税が引下げ・撤廃された品目の例、図表の下はトランプ大統領が各国の輸入品にかけた「相互関税」の税率です。相互関税とは、相手国が自国の製品に関税をかけているときに、対抗して同等の関税をその国からの輸入品に課すという考え方です。
[図表]関税が引下げ・撤廃されたらどうなる?
気づかぬところで取られている、あらゆる税金
ゴルフ場利用や温泉入浴にも税金が…
ある夏の日、顧問税理士のAさんはB社長主催のゴルフコンペに誘われ、出かけることになりました。ゴルフ場まで、AさんはB社長が運転するクルマに同乗させてもらいます。
高速道路に入ると、B社長がAさんに話しかけました。「A先生の話を聞いていると、税金ってのは何にでもかかってるってことがよくわかりますね。所得税に法人税に相続税に消費税。このクルマだって自動車税に自動車取得税――あ、環境性能割か、それに自動車重量税。さらにガソリン税……」
「まだまだありますよ」とAさん。
「これから行くゴルフには『ゴルフ場利用税』がかかります。これは道府県税で、標準はゴルフ場の規模により1人1日1200円から400円。18歳未満と70歳以上の人は非課税、国体のゴルフ競技のときの選手も非課税です。
ちなみに令和2年度の税制改正では、東京オリンピックなど国際的なスポーツ大会の選手の公式練習、競技も非課税と決まりました。それから、帰りに温泉に寄れば『入湯税』。こちらは市町村税で1人1日150円が標準です。わずかな税額と思いますが、全国では1年に200億円以上の税収になるそうですよ」
「もう何を聞いても驚きませんな……」
どんどん増える新しい税制
「そのときどきで変わる税制もあります。たとえば平成24年には、外貨投資をする人が増えたからなんでしょうか、『国外財産調書制度』というのが創設されました。海外に持った財産から得た所得や、相続財産の申告漏れが増えたので、調書を提出してもらおうというものです」
5000万円を超える国外財産を保有する個人は、「国外財産調書」を提出しなければなりません。しかし、海外に財産を移して課税逃れをする人が絶えないので、令和2年度の税制改正でも罰則が強化されました。調書に記入した財産についての関連書類の提出が遅れると、10%だった過少申告・無申告加算税が15%に加算されます。提出があると5%という軽減措置つきです。
関連書類の提出がないと、10%加算で20%になります。ちなみに、平成27年度の税制改正では「財産債務調書」も創設されています。所得税などの確定申告をする必要がある人で、その年の所得金額が2000万円超、かつ年末時点の財産価額が3億円以上など、一定の要件を満たす人は、翌年6月30日ごろまでに財産債務調書を税務署に提出しなければなりません。
「いまは経済がグローバル化しているからなあ」とB社長。
「そうなんですよ。平成27年からは、株式などを保有したまま外国に移住し、税金の安い国で売却するという税金逃れを防ぐ特例も創設されました。国外に転出する一定の高額資産家は、株式の含み益などに対して譲渡所得と同じような課税がされます」
相続税も、税金逃れのために国外に持つ財産が課税対象に加わりました。相続人か被相続人が、被相続人の死亡前10年以内に国内に住所を有する日本人の場合は、国外財産にも相続税が課税されます。
令和2年度の税制改正では、所得税の扶養控除の国外居住親族に関する要件が見直されています。実は、配偶者控除や扶養控除などは所得税法上、国外に住んでいる親族にも適用できるのです。
しかも、扶養親族にあたるかどうかは、その親族の日本国内での所得だけで判定されていました。つまり、日本で働いている人に、国外でバリバリ働いている親族がいても、扶養親族にできて扶養控除が受けられるという問題があったわけです。
そこで、国外居住親族の年齢要件が見直され、16歳以上とだけあったのから、30歳以上70歳未満の親族を扶養控除の適用対象から外しました。さらに法人税でも、外国子会社を利用した租税回避を防ぐため、一定の条件を満たす外国子会社の所得に相当する額を、親会社の所得とみなして合算、課税する制度があります。令和2年の税制改正では、海外の子会社からの配当と、その子会社の売却で親会社が節税をする手法を使えないよう、法人税法が改正されています。
「いまは、日本から出国するだけでも税金がかかるからなあ」とB社長。
「国際観光旅客税のことですね」
観光立国実現に向けた基盤整備のためとして、平成31年1月7日以後、日本を出国する人に1人当たり1000円の「国際観光旅客税」が課税されています。2歳未満の子や、外交官などは非課税です。
「逆に、来日する観光客にうれしいのは、外国人旅行者向けの消費税免税制度の拡充でしょうね。平成26年10月には免税の対象が食品や薬品などの消耗品に広げられて、あの『爆買い』を誘ったんですよ」
また、令和2年4月にスタートしたのが「免税手続きの電子化」です。それ以前には、外国人旅行者のパスポートに購入記録票をホチキスで止め、割印を押すなど面倒だった手続きを廃止し、インターネットで国税庁にデータを提供する方式ができました。
その一方で近年、問題となっているのが、訪日客が免税で買った商品を日本にいる間に転売し、免税分との利ざやを稼ぐ行為です。これを防ぐため免税の制度を改めて、購入時には消費税を払ってもらい、出国時に空港で免税分を払い戻す方式(リファンド方式)がスタートします。購入金額によっては、税関の職員が荷物を確認するそうです。令和8年11月1日以後の購入から適用されます。
「はあ、毎年、新しい制度ができて税金を納める側もたいへんだ。ゼイゼイしますな」とのあいかわらずのダジャレに、
「それじゃあ」とAさんが切り返します。
「サービスエリアに入って、キンキンに冷えたアイスコーヒーでも飲みましょうか。ひと休みしましょうよ」 いつのまにか、息の合ったコンビになっているB社長とAさんです。
梅田 泰宏
梅田公認会計士事務所 所長
税理士法人キャッスルロック・パートナーズ
公認会計士・税理士
