◆ゼロドロップシューズという逆転の発想
厚底と反対のコンセプトのシューズもありますよね?「膝に優しい厚底シューズのムーブメントがある一方で、逆の発想をもとに設計されている靴もあります。それがつま先とヒールに高低差のないゼロドロップシューズです。HOKAのような厚底でふわふわなソールは痛みをすでに抱えている方には即効性もあり、結果歩けるようになるので『守りの足育』と個人的には呼んでいますが、その真逆が薄底による『攻めの足育』。特に痛みはないけど足~脚を効率的に鍛えたいならゼロドロップシューズが最高です」
ゼロドロップのメリットは何ですか?
「足の裏のセンサーを鍛えることと、踏ん張ることによる体幹の強化です。考えてみれば、人の足はフラットにできています。快適さを追求すると、革靴からスニーカー、とくにヒールの高低差のないゼロドロップは理にかなっています。アルトラの代表作LONE PEAK9+WIDEはゼロドロップの典型的なモデルです。現在、レオナルド・ディカプリオがプライベートで愛用している名作で、底の厚みはわずか2㎝ほど。通常のスニーカーが平均で3㎝、HOKAなどの厚底シューズは4㎝以上の厚みがあるので、履くと地面の凹凸がダイレクトに伝わってきます」
実際に履いてみてどうでしたか?
「履き始めてから3日間、ほどよい筋肉痛に悩まされました。足の裏、ふくらはぎ、腰回りと、広範囲で筋肉痛が発生。4日目からは体がなじんできて、足全体で地面を捉えている感覚が芽生え、背筋が自然に伸びています。猫背では歩くこと自体が困難ですが、そのぶん矯正力があります。脱力していても、無意識のうちに背筋が伸びているのが感じられます。ただ立っているだけでも、指先と体幹には適度な緊張感があり、不安定感はまったくありません。重心が真下に落ち、体全体がまっすぐに使われるので、結果としてまっすぐ歩けるようになります」
最後に「痛くならない靴選び」のポイントを教えてください。
「膝も関節も消耗品です。最新のデータだと35年が耐用年数の限界とまで言われています。歩きやすい靴が欲しいと思ったときに、まず見るべきは値段でもブランドでもありません。靴には進むためか止まるためかといった目的があり、それを見誤ると高価な靴でも足に負担がかかります。さらに、サイズ表示は目安にすぎず、自分の足と靴の相性を知るには実際に歩いて確かめるしかありません。そして、『靴だけで解決する』のではなく、合わせ技として機能性インソールを一緒に購入すること。靴選びとは、『目的×サイズ×インソール』の掛け算だと思って買い物にいってください。『幅広・甲高が最高、価格が高ければいい、中敷きはゆるい靴をきつくするためのツール』といった、昭和~平成の常識はすべて捨ててください。過去のどんな靴選びの本にも書かれていない『令和の最新の常識』をこの本に詰め込みましたので、お読みいただけると必ず世界が変わると思います」
【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』。著書『予約の取れないシューフィッターが教える正しい靴の選びかた』

