◆グローバル化に飲まれていたアメリカのリアル

当時のアメリカはITバブルで大変な好景気にあり、私の同級生の少なからずが卒業後に高度技能者としてIT系の会社やコンサルティングファームなどに就職し、そのままアメリカに定住している。 当時はビザの申請枠が非常に多く、申請さえすればほとんどの大学院レベルの外国人留学生は就労許可を取得することができた。
一方、当時のアメリカは産業構造が変化していたので、従来は安定した仕事を得ることができた製造業は田舎からどんどん減っていた。1980年代までは地元の高卒の人々でも安定した雇用を得ることができ、家を買うこともできたが、親世代のように安定した雇用を得ることができなくなった私の知り合いたちは、学歴もそれほど高くないので、軍に応募したり、本当はやりたくないサービス業などについていた。
私たちのような外国人留学生がIT系の会社やコンサルティングファームに就職して高い報酬を得る影で、彼らの報酬はどんどん下がっていく一方だった。
その後、好景気に沸くアメリカでは大学の学費がどんどん上がっていった。
私が90年代に在籍していた大学の学費は、今や6倍になっている。学費だけで年に500万円かかる大学も珍しくない。ITバブルやグローバル化で豊かになった家庭の人々は超高額な学費を払い、子供たちはグローバル化によりさらに儲かるようになった業界に就職していく。
そんな子供たちは左翼系のイデオロギーを大学で学び、LGBTQや環境保護、女性の人権、多様性などを日常的に口にする。だが、彼らのいう「多様性」には、食品工場や建設資材を扱う工場で働くごく普通のアメリカの労働者たちは入らない。
◆「ごく普通」の人々が溜めた怒り
グローバル化の恩恵を受けた人々と、取り残された「ごく普通」の人々の生活圏はますます分断していった。アメリカでトランプ大統領が大人気になり、保守が支持を得るようになったのは、このような社会の分断が拡大したからだ。
その変化を実際にこの目で見てきた私にとっては、トランプ大統領を支持するアメリカのMAGAの人々を真っ向から否定する気にはなれない。
彼らの多くはとてもシンプルで明るい人々で、 私のような外国人に対してはとても親切な人々だ。
バイデン政権時代、テレビでは多様性ばかりが強調され、「不法移民を受け入れろ」と言うメッセージが繰り返された。
不安定な雇用の中で食肉工場で不法移民のメキシコ人と働き、安くはない税金を払う気の良いアメリカ人たちが心の中に溜めた怒りは、相当なものだった。
民主党は彼らにもっと貧しくなれ、法を犯す外国人を受け入れろ、それが多様性なんだと繰り返していたからだ。しかし寛容になっても、毎日ハンバーガーを焼き、床を掃除する彼らはまったく感謝されない。子供を大学に入れることさえできない。老後は野垂れ死に確実だ。

