なぜパートとアルバイトの違いがあいまいに?
──1980年代以降、「パート」と「アルバイト」の境界はどのように変化したのでしょうか。
80年代に入ると、「学校卒業後も企業に就職して終身雇用で働くという価値観に捉われない生き方を自ら選んだ人」という意味をもった概念として「フリーアルバイター(フリーター)」という言葉が現れます。しかし、90年代初めにバブルが崩壊すると就職氷河期が訪れ、就職したくてもできず、アルバイトとして働かざるを得ない人々が現れ、「フリーター」像も変化していったのです。これにより、学生中心だったアルバイトの担い手は、より幅広い年齢層・社会階層へと広がっていきました。
そして、90年代後半から2000年代にかけては、短時間雇用や有期雇用の仕事をいくつも掛け持ちして生計を立てる人々が増加します。こうして、昼間に女性がおこなう短時間勤務がパート、夕方以降に学生がおこなうのがアルバイトという区分の意味が、法的にはもちろん、実態としても薄れてきたと考えられます。
──なるほど。それぞれの違いがあいまいになっても、「パート」「アルバイト」の名称と旧来からのイメージだけは残っているということなんですね。
もちろん、先ほど述べたように、個別企業のレベルでふたつのカテゴリーを使い分けているケースは現在でも少なくありません。それに、時代の流れとともに両者の区分が全く無意味化したのであれば、どちらかの呼び方が淘汰される可能性もあったわけですが、ふたつの呼び名が現代に至るまで共存しているということは、非正規雇用の労働市場がいまでも重層的であることを示しているとも言えるでしょう。
パート・アルバイトを取り巻く課題は?

──ここまでは歴史的な変遷を伺いました。現在、パート・アルバイトを取り巻く労働環境の課題には、どのようなものがありますか?
かつては、パート・アルバイトだから通勤手当は出ない、従業員食堂も使えない、といったように、待遇や福利厚生面で正社員との間に差別があるのは当たり前でした。しかし、1993年にパートタイム労働法が制定され、2007年にはそれが大きく改正され、さらに2018年にパート・有期雇用労働法に発展するといった経緯を経て、現在ではパート・アルバイト労働者に対する不合理な格差を設けることは禁じられています。
しかし現実には、パート・アルバイト労働者の雇用は、正社員に比べていまなお著しく不安定な状況に置かれていますし、正社員と同じ仕事をしていても賃金・処遇面での格差があるといった問題も依然として残っています。
また、この法律で、パートタイム労働者を「1週間の所定労働時間が、フルタイム労働者と比べて短い者」と定義していますが、昨今では短時間正社員というカテゴリーも登場してくるなど、法律の名称が変わったことが示すように、正社員と非正規社員を区別する基準としては、所定労働時間よりむしろ雇用契約期間の有無が重要になってきたことにも注目することが必要ですね。
──たしかに、多様な働き方が認められるようになりました。働き方の選択肢が増えることは良いように見えますが、制度上の課題はありますか?
昨今増えてきているUber Eats配達員などのギグワーカー*やフリーランスも、しばしば「アルバイト」と表現されるにもかかわらず、形式上、雇用労働者ではなく個人事業主として仕事を請け負っています。したがって、労働者としての保障(労働時間の規制や社会保険・安全衛生基準など)が受けられず、収入も不安定になりやすいことが挙げられます。世界的にも「こうした人々を労働者として認めるべきか」は議論の焦点となっています。
一般的に「指揮命令下で働くのが労働者。仕事を受けるか否か、どのように仕事を進めるかについて自由に決められるのが個人事業主」とされていますが、もはやこの単純な区分では現実にそぐわない部分が出てきているわけです。労働者にも形式上ある程度の裁量が認められる場合は多いですし、ギグワーカーやフリーランスも実質的にはクライアントからの指揮や命令に従って働いていると見なし得る場合があるためです。
*ギグワーカー……インターネット上のプラットフォームを介して、単発の仕事を請け負う人──パート・アルバイトとして働く高齢者や外国人も増えていますが、こうした労働者を取り巻く課題はありますか?
高齢者の場合、定年退職後に同じ事業所で継続して雇用される再雇用制度を使うケースもあります。ただし、合理的な理由がないのに定年前より大幅に賃金が減ってしまうケースもあり、問題視されています。
また、外国人の場合はとくに技能実習生制度のもとで働く人たちを中心に、劣悪な労働環境、職種変更や移動の制限を被っている労働者もいまだ数多くいます。年齢・性別や国籍を問わず公正な雇用・労働条件が保障されることが大切です。

