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医療的ケア児とその家族が安心して暮らせる地域づくり

医療的ケア児に、学びや遊びの機会を増やしたい

――Burano Oyamaならではの特色はありますか。

秋山:多くの施設がアパートの一室や空きテナントを改装してつくられる中で、Buranoには庭があり、自然に囲まれているのは大きな特徴だと思います。壁一面を窓にしているのも、自然を全身で感じてもらいたいからです。医療的ケア児の多くは自然と触れ合う機会がほとんどないんです。だからこそ、日常の中で季節のうつろいや小さな変化を味わえる環境を大切にしました。

Burano Oyamaに設置されている大きな窓

秋山:以前読んだ本に「障害がある子どもたちにとっては、葉っぱの色が季節ごとに変化したり、落ちたり……といった、当たり前の風景が大きな出来事となり、その美しさに心を動かされる」と書かれていました。そうした体験を、ここで日常的に積み重ねてほしいと思っています。

――これまでの福祉施設や、社会制度に不足している点はなんだと思われますか。

秋山:いちばん足りないのは、子どもたちにとっての「学び」の機会でしょう。医療的ケアが必要というだけで、通常の保育園や小学校に入れないケースも多く、小山市ですと隣の市にある特別支援学校に通わざるを得ないという現状があります。片道40分以上かかることもあり、これは親にとっては大きな負担になりますし、体調の問題などで毎日通うのが難しいことも少なくありません。

また、自宅に先生が来てくれる訪問学級という制度もありますが、週に3日、1回2時間ほどで、そうなると、学びの機会が限られるだけでなく、同世代の友達とつながる時間そのものがなくなってしまうんです。本来なら学校で自然に身につくはずの社会性も育ちにくいでしょう。

それに、多くの施設では送迎や入浴介助など介護に近い支援に力を入れがちです。もちろん必要な支援ですが、その分、子どもたちと遊んだり活動したりする時間や人手が足りなくなってしまう。結果的に「学び」や成長の機会が後回しになってしまいます。

だからBuranoでは、子どもたちが自然や地域の人と関わりながら、いろんな経験を通じて学んでいける環境づくりを大事にしています。

――オープンから1年が経ちましたが、地域とのつながりは生まれましたか。

秋山:オープンのときに近隣の20世帯へご案内を出したんです。それからは、散歩の時にすれ違った方に挨拶したり、最近では向こうから声をかけてくださったりすることもあって、少しずつ関係が深まってきているのを感じます。

――親御さんからはどのような声が寄せられていますか。

秋山:「子どもの活動の幅が広がった」という声が多いですね。以前は室内での活動が中心でしたが、ここには庭があるため、子どもたちが自然と外に出て遊ぶようになりました。雪が降ったら雪遊びをしたり、虫取りに出かけたり……。子どもたちの「やれること」「やりたいこと」が広がって、創造性が豊かになっていると思います。

Burano Oyamaの庭で水遊びをする子どもたち。画像提供:一般社団法人Burano

福祉に触れるということは、人生の幅を広げるということ

――身近に福祉サービスを受けている人がいないと、「自分には関係ない」と思う人も少なくありません。福祉に興味を持ち、関わってもらうために、どんな工夫やきっかけが必要だと思いますか。

秋山:Buranoでいうと「動き続けること」ですね。意図的に大きなイベントを仕掛けるのではなく、散歩や買い物など、毎日の小さな活動を積み重ねることで、地域との関わりが自然と生まれます。そこから地域の皆さんの関心へと広がっていくのではないでしょうか。

――実際に関わりを持つことで、どのような変化や気づきが生まれるのでしょうか。

秋山:ひと口に障害といっても、視覚、聴覚、知的、精神など本当にさまざまです。それぞれ異なる状況にある人と関わる中で、「生きるとは何か」「人生とは何か」といった根本的な問いを日々突きつけられ、自分なりに考え続けています。その積み重ねによって、人生に対する視野が広がっていきました。

私の子どもは筋肉の病気で歩くことができませんが、毎日一緒に過ごしているからこそ、単に「かわいそう」という感情だけでは済まされません。歩けなくても、その子ならではの個性や魅力を見つけていく。

同じようにさまざまな人と出会うたびに新たな問いが生まれ、真摯に向き合えば向き合うほど、人の価値をより多角的に捉えられるようになってきました。

――秋山さん自身の価値観も変化していったのですね。

秋山:はい。以前の僕は「他者と比較して優れていることが価値」と考えていました。でも、福祉に関わる中で、その価値観は崩れていきました。

誰かと比較しなくても、人には価値があり、幸せ、豊かに生きられる。そのことに気づけるのが福祉だと思います。

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