ディオールのre-see
今シーズンの話題はなんといってもディオールやシャネル、バレンシアガなどデザイナー交代によるデビューのショーが目白押しということでしょう。中でも、その話題の筆頭は、ディオールのアーティスティック・ディレクターに就任したジョナサン・アンダーソン。ショーには入れませんでしたが、ショー会場と同じ場所でre-seeが行われました。

中央部にはショーの冒頭に使用した映像が、逆さづりになったLEDのピラミッドに投影され、その周囲に今回登場した服や靴、バッグなどが展示されました。
ジョナサン・アンダーソンといえば、ロエベのクリエイティブ・ディレクターとして、工芸の要素を取り込むなどロエベをオリジナリティーあふれる人気ブランドにして、存在感を高めた立役者です。いま、最も注目を集める「時の人」だけに、期待は高まります。



ディオールのアイコンである「バー・ジャケット」は、シュリンク加工を施して、しかも現代的なバランスに。レースやビーズ刺しゅう、ドレープの作り方など、どれをとってもきめ細かく計算され、美しく、しかもジョナサン・アンダーソン流の要素が盛り込まれています。

ディオールというメゾンのクラフツマンシップと、ジョナサン・アンダーソンのリサーチ力、ディオールというメゾンの解釈や手仕事を大事にしてきた姿勢が相まって、新たなディオールの世界を作り上げています。


バッグや靴も充実。グリーンの「レディ ディオール」には、小さなテントウムシも。「魂は細部にやどる」といいますが、ほんとにそうかも。次のシーズン、どのように進化していくのか、期待です!
エコール・ド・キュリオジテ

作家の原田マハさんとデザイナーの伊藤ハンスさんが作るブランド「エコール・ド・キュリオジテ」の展示会。今回の会場は、6区にあるプリミティブアートのギャラリーです。

今シーズンのテーマは「ヤドヴィガ」。画家のアンリ・ルソーが最晩年に描いた作品「夢」がモチーフです。
毎シーズン、原田さんがコレクションのために様々なテーマや人についてショートストーリーを書いてきましたが、今回は原田さんが満を持して、ご自身の作品「楽園のカンヴァス」から抽出したストーリーを提供しています。
「ルソー最後の大作『夢』では、ルソーが生涯行くことがかなわなかった遠い異国の熱帯への憧れがむせかえるほどの密度で描かれています。同時に、絵画の中心に横たわるヌードの女性『ヤドヴィガ』は、画家の理想と妄想が結実したミューズです」と原田さん。
いつも原田さんのストーリーから想像を膨らませ、服に落とし込んでいくのが伊藤さん。



今回はルソーのミューズであるヤドヴィガがまとう服がイメージとなっており、密林のグリーン、熱帯の花を思わせる赤を使っているのが特徴です。カラフルなアプリケ、そしてクラシックなレース編みのドイリーなどをジャケットのアクセントに使っているのが楽しい。ほかにもアンリ・ルソーが作品でよく使い、自身もよく着ていた「黒」のジャケットなどもあります。
地球温暖化の影響で、夏がどんどん暑くなっていく中、繊維の長い細番手の糸を高密度で織ったタイプライターコットンと呼ばれる木綿の布を使ったシャツは、さらっとした肌触りも最高でずっと着ていたくなるようなものでした。

伊藤さんがテーマに合わせて、すてきな「おやつ」を出してくれました。熱帯を表現したパッションフルーツ、そしてイチジクがのったヨーグルトとグラノーラ。ブルーベリーとブルーベリーの形をしたキャンドルが並び、そして原田さんが日本から持ってきたカステラも。いつもながら、美味でした。
「アートを着る」という言葉を時々耳にしますが、このブランドもそのひとつかもしれません。でも単にアート作品がついたものを着るというのではなく、原田さんのストーリーから絵の世界が広がり、しかも原田さんのストーリーから様々なことを読み取ってイメージを広げ、服に落とし込んでいくという伊藤さんの作業を含め、モードとアートと文学が融合し、一連の流れがユニークでアーティスティック。また、フランスに古くから残る機械を使い、手刺しゅう、プリーツなども盛り込み、どこか「人の手」のあたたかみを感じる服になっています。
2026年はブランドがスタートして10年。どんなストーリーと服が出てくるのか、ワクワクします。
text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
・見応えのある職人の手仕事【マリ・クレールデジタル編集長のパリコレ日記】
