◆裁判に勝ったが「ずっと安泰とは言い難い状況」
わざわざ縄師に頼んだという緊縛リカちゃん人形たち。人間と違って滑るから縛るのは難しいらしい。便器型灰皿に座っているものも多い リカちゃん人形に関しては、「ここはみんなSMだって言うんだけどね。そうじゃなくて……わかるでしょ、こんなに十字架があって。これキリシタン関係のイメージでやったんだけどね。だけど、なかなか理解してくれなくて。まあ、それはそれでいいんだよ。その人たちがなんと思おうとね。キリシタンの拷問はSMじゃないからね」とのこと。なるほど、いっしょに遠藤周作のキリシタン文学『沈黙』も並んでいた。でも、その周りにSMイラストもたくさん展示があるから、受け止め方は多様でいいのだろう。
ゴミステーションで回収したものがある一方で、下着はわざわざ買ってきてもらったものだとか その一方で、戦時中の物資不足を示す陶器製湯たんぽとか、黒人差別として絶版となった絵本『ちびくろ・さんぼ』やその余波であちこちで回収騒ぎとなった黒人人形が大量に飾ってあるコーナーなどより社会派的な展示もある。性表現も権力者によってしばし規制の対象にもなってきたと考えると、カオスな展示の中に、1本芯が通ったものが見えるのだ。よく見たらバブル期のボディコン衣装とかエヴァの綾波レイフィギュアなど、平成のものも混じっているし、やっぱり趣味性の方が強いか……。
黒人差別として絶版になったり回収された品々。きちんと資料として展示されているのは大事だろう 坂栄養食品の現在の社長は、創業社長の弟の長男が就任している。館長の従兄弟だ。館長自身はかつては坂栄養食品の取締役・開発部長でもあったが(現在も大株主ではある)、博物館の運営に専念。ただ、こんな展示内容なので、会社側からは立ち退きを要求され、10年ほど前には裁判沙汰となった。長年、館長とともに博物館を運営してきた中本尚子副館長も会社を解雇されたりもしている。裁判の結果は、館長側の勝訴。ただ、建物は老朽化し、館長も82歳と高齢なので、「レトロスペース・坂会館」がずっと安泰とは言い難い状況である。興味のある方は、すぐにでもこの濃厚な《異空間》へ足を運んでほしいと思う。
<TEXT/関口勇>
【関口勇】
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ