コーヒーとお茶にまつわるBetter Lifeのヒントを集めた、&Premium144号(2025年12月号)「コーヒーとお茶と、わたしの時間」より、『ADI』『Chiyaba』店主、アディカリ・カンチャンさん、アディカリ明日美さんのひと息つく時間、そのスタイルを訪ねました。



アディカリ家流ベーシックなマサラチャイと、アレンジした飲み方。



上質な茶葉と、スパイスの香りに包まれる安らぎ。
料理人のアディカリ・カンチャンさんの故郷は、ネパール南部、ヒマラヤの麓に位置する平地部である。街中では、道端でチャイを売る人が連なり、デリバリーをするチャイボーイが通りを駆け抜ける。それが、日常の光景だという。この国ではチャイは単なる飲み物にとどまらず、生活に根付いた文化といってもいいものだ。
「3、4歳の頃から朝昼晩、チャイを飲むのが習慣になっていました。一日に8、9杯は飲むのが当たり前で。日本に暮らすようになって十数年経つけれど、その習慣はずっと変わりません。飲んだ瞬間、一番ほっとできる飲み物ですね」とカンチャンさん。ちなみに、マサラチャイの「マサラ」とは、ネパール語で「スパイス」を意味する。
「母が作ってくれたチャイもスパイスは欠かせないものでした。頭痛がするときに、黒胡椒をしっかり効かせて作ったりしていて。体調や気分に合わせてベーシックなチャイにスパイスを調合するんです。そうした考え方は、僕が作るチャイの基本になっています。ネパールの本場の味は、牛乳が特徴的で。水牛のものを使っているので、そこが日本とは一番異なるところ。水牛が牧場に放し飼いにされていてキャベツやなすなど、そのときどきの季節の野菜を食べているんです。だから、水牛のミルクにもその匂いがする」
カンチャンさんは、2017年にネパール東部に位置するバンチャー地方の標高約2300mの山岳地帯を訪れた。そこで、小さな茶農家が作る白茶のおいしさに出合えたことが、紅茶ブランド〈Chiyaba〉を立ち上げるきっかけになったという。良質なお茶を作る茶農家をサポートしながら、お茶があることで生まれる特別な時間を届けたいと思うように。明日美さんは、カンチャンさんとの出合いを機に、お茶の魅力にハマっていった。
「カンチャンと一緒にネパールの有名な茶農家のお茶をたくさん飲みましたが、私たちが契約している農家のお茶は、大地が持つ穏やかな香りがします。それを“ヒマラヤの香り”と言っているのですが。お茶の話になると、原料のチャノキの種類や発酵度合いの話になることが多いけれど、おいしい茶葉を作るための条件として、土が大事だということに気づかされました」と明日美さん。
カンチャンさんが続ける。「湿気を含んだ土には苔が生えていて、手に取って香りを嗅ぐと、森の香りそのものだと感じます。この素晴らしい土が、オーガニックのお茶のおいしさを支えています」
自分たちがオンリーワンだと感じる茶葉を使ってチャイを淹れる時間は、ささやかながらも特別なもの。ストレートに味わうのはもちろんのこと、季節に合わせてアレンジを考えるのも楽しいと二人は口を揃える。「寒くなるこれからの季節は細かくスライスした生の生姜とベイリーフを加えて香りづけをして煮出すのもおすすめ」。そう、明日美さんが教えてくれた。

アディカリ家のチャイに使う茶葉は、ヒマラヤの麓の茶畑で育てられたアッサム茶。「自分の感覚では、乳脂肪分3%以上の牛乳を使うとおいしくなる」とカンチャンさん。

ビスケットがチャイを吸って軟らかくなり、さらにビスケットの風味がチャイに移る。互いを引き立て合う素材である。「チョコレートビスケットもチャイに合います」

まろやかで甘いチャイの味に変化をつけたいときにインスタントコーヒーをひと匙。「味にコクが出ます。ネパールのストリートでは、こうした飲み方が定番のスタイル」

ネパールのサトウキビを原料に製造された「ククリラム」がお気に入り。「体の内側から温まるし、ほどよく酔える。あとは、コーヒーリキュールも相性がいい」

アディカリ・カンチャン アディカリ明日美『ADI』『Chiyaba』店主
東京・中目黒でネパール料理と日本の食材を融合した料理を提供するレストラン『ADI』とチャイ専門店『Chiyaba』を二人三脚で営む。
photo : Tetsuya Ito edit & text : Seika Yajima
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