
60歳の星野さんは、大学生活を送る息子への仕送りのため、食費を削り、外食も控える倹約生活を続けていました。しかしそんなある日、電話口の息子が震えた声で、まさかの多額の投資詐欺被害を告白したのです。我が子を思う親の気持ちにつけ込む卑劣な手口に、同世代の親はどう立ち向かえばよいのか……。FPの青山創星氏と一緒に考えていきましょう。
月8万円の仕送りに込めた親心…息子からかかってきた「驚愕の電話」
星野歩さん(60歳・仮名)は地方の製造業で働く会社員です。定年まであと5年という今、息子の大学費用と自分たちの老後資金の両立に日々頭を悩ませていました。
妻のパート収入と合わせても決して裕福とは言えない家計の中から、息子への仕送りは月8万円。家賃4万円のアパート代を除けば、食費や日用品代として十分とは言えない金額でしたが、「息子には不自由させたくない」という親心から続けてきました。
息子の健太郎さんは都内私立大学の経済学部2年生。入学当初は頻繁に連絡を取っていましたが、最近は月に1〜2回のLINEのやり取り程度。「大学生なんだから、これくらいが普通だろう」と星野さんは考えていました。
しかし、ある日の夕方6時過ぎ、仕事から帰宅した星野さんの携帯電話が鳴りました。
「もしもし、父さん?」
いつもと違う、震え声の健太郎さん。「どうした?風邪でもひいたのか?」と心配する星野さんに、息子は言いました。
「父さん、ごめん…本当にごめん。お金のことで相談があるんだ」
まさか息子が、現代の大学生を狙った罠にはまり苦しんでいるとは、夢にも思いませんでした。
憧れの先輩からのお誘い――巧妙な罠の始まり
健太郎さんが詐欺に遭った経緯は、大学生の被害の典型的な事例の1つでした。きっかけは、同じ大学の先輩からの何気ない誘いでした。
「健太郎くん、ちょっといい話があるんだけど、今度喫茶店で会わない?」
その先輩は、健太郎さんが憧れていた経済学部の3年生。いつもブランド物を身に着け、高級な腕時計をしていることで有名でした。「投資で稼いでいる」という噂もあり、健太郎さんは密かに尊敬していたのです。
喫茶店で待っていたのは先輩だけではありませんでした。20代後半と思われる男性が同席し、自らを「投資コンサルタント」と名乗りました。
「君みたいな優秀な学生なら、絶対に成功する。僕の教え子は月20万円以上稼いでいる子もいるよ」
男性が見せたスマートフォンの画面には、確かに利益が出ているようなグラフが表示されていました。
「AIが自動で取引してくれるFXアプリなんだ。最初に50万円の教材を購入すれば、その後は完全自動で稼げる」
健太郎さんの頭の中は混乱しました。月8万円の仕送りでやりくりしている自分に、50万円など用意できるはずもありません。すると男性は言いました。
「大丈夫、学生ローンを紹介するよ。すぐに元は取れるから心配ない」
この巧妙な手口は、全国の大学生を狙った典型的なマルチ商法のパターンでした。
