◆我慢の限界を超え車掌室に駆け込む
気がつくと、新大阪駅まで残り1時間を切っていました。なのに、資料は半分も仕上がっていなかったそうです。岡部さんの中で、静かな怒りが徐々に膨れ上がっていきました。「これはもう限界だな、と思ったんです。相手は悪気がないのかもしれませんが、私の仕事や時間を完全に無視しているように感じました」
耐えかねた岡部さんは、イヤホンを外し、相手の目を見てはっきりと伝えました。
「ジロジロ見ないでいただけますか?とっても気になるんです。私、新大阪到着までに資料を作成しなきゃいけないんで」
すると男性はやや驚いたような表情を浮かべた後、鼻で笑うように「はいはい〜」と受け流すように答えたそうです。その態度にもまた、岡部さんの中でイラ立ちが募っていきました。
その後、男性が席を立ちトイレに向かったタイミングで、岡部さんはすぐに行動に移しました。パソコンと荷物を持ち、隣の車両にある車掌室へと向かったのです。
◆ようやく解放され間に合った資料作成
事情を丁寧に説明すると、車掌はすぐに状況を理解し、別の空席を案内してくれました。ようやく静けさと集中力を取り戻した岡部さんは、残り時間で何とか資料を仕上げることができたといいます。「席を替えてもらうことって初めてで緊張しました。柔軟に対応いただいた車掌さんには感謝しかありません。でも今思えば、もっと早く行動すべきだったかも。相手の気分に配慮して、自分の仕事を台無しにするのは本末転倒ですから」
岡部さんは、車掌に案内されながら元の席を通り過ぎた際に、トイレから戻っていた男性と視線が合ったといいます。男性は不思議そうな形相で岡部さんを見ていたそうです。
「年齢が原因なのでしょうか、それともあの男性が特別なのでしょうか。もはやこういうのって“ハラスメント”の領域に入っていると思います。私も、職場でこのようなことをしていないか、思わず考え込んでしまいました」
今回の出張は、岡部さんにとっていろいろと学ぶことが多かったそうです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

