◆調査2日目:10時34分 この歳で一人旅しても何も楽しくない
名古屋行きの「こだま」から初老の男性が降車して、ホームの柱にもたれかかっている。「つかぬことをお聞きしますが、どうして品川で下車を?」
「うーん、旅の途中かな。ぶらり旅です」
この男性、アテもなく新幹線に乗り、気が向いた土地で降りる自由な旅を画策しているのだが、1駅目の品川で降りてしまったそうだ。にしても早すぎませんか。
「面倒くさくなっちゃってね。静岡辺りまで行って美味いもんでも食おうかなと思ってたんだけど」
聞けば、昨年、定年退職したが、40年間仕事一筋で生きてきて、時間を持て余しているのだという。
「ずっと家にいると嫁さんが邪魔者扱いしてくるんだよ。特に趣味もないから、とりあえず新幹線に乗ってみたんだけど、すぐにこの歳で旅したって何も楽しくないって思ったんだよね」
お父さん、もっと早く気づきなさいよ。
「このまま帰ったら嫁さんにバカにされそうだから、適当に酒でも飲んでから帰るよ」
仕事を辞めたら、やること無し。どこか寂しげでした。
◆調査3日目:12時07分 奥さんを東京駅に見送りに来させて、これから愛人と密会
「のぞみ」から缶ビール片手に上機嫌の中年男性が降りてきた。「品川まで新幹線で?」
「え、そうだけど」
「なんで在来線、使わないんですか? 運賃も安いし時間もそんな変わらないじゃないですか」
「そうだけど、あんたには言いたくないね」
「お父さん、教えてくださいよー」
笑顔で粘ってみたら、案外すんなり答えが。
「実はこれから、羽田空港で女と待ち合わせなんだよ」
「あーそれは、良からぬ関係の相手だったりとか?」
「そう、不倫相手。ハハハ」
「でも、それなら新幹線になんで乗ったんですか?」
「出張するふりして嫁さんを騙すためだよ」
なんと、出張だとウソをつき、わざわざ奥さんを東京駅まで見送りに来させてアリバイを作ったのだという。そして品川駅で京浜急行に乗り換え愛人と落ち合うらしい。実に用意周到。悪い人だなぁ。
「前にバレちまったことがあって大変だったのよ。だから絶対バレないようにって、この作戦考えたの」
この手口が発覚したら、また次の方法を考えるつもりだと、男性は京急線方向へ急いで消えた。

