息子自慢の果てに思い至った“最高の未来”
美穂さんの夫・浩二さん(仮名・61歳)は決して高学歴ではなかったものの、いわゆる“たたき上げ”の仕事人。平社員から部長職まで上り詰め、退職前のピーク時年収は約1,100万円を誇ります。
学校の教育費から塾代、テニススクールの費用や道具類、遠征費にいたるまで、愛するひとり息子のためにお金を惜しみなく注ぎました。学校教育費以外の費用として大きかったのは塾代で、小学5年生から高校卒業までの8年間で総額500万円ほどはかかったと記憶しています。
美穂さんは専業主婦であったため、雄太さんの十分な教育環境は、経済的には浩二さんのおかげでした。
しかし、美穂さんは「いまの雄太があるのは私のおかげ」という思いが強く、浩二さんへのリスペクトはみられません。
寡黙な夫を毛嫌い…ママ友とのランチをきっかけに「離婚」を決意
家族の生活を守るため、懸命に働いてきた浩二さん。しかし、家庭内では美穂さんの逆鱗に触れぬよう、静かに過ごしていました。
一方、美穂さんは美穂さんで多忙な夫に対して「全然かまってくれない」と不満を募らせていたといいます。さらに、浩二さんが定年退職し家に居るようになると、今度は「寡黙すぎてつまらない」と、いっそうの嫌悪感を抱くようになりました。
そして、雄太さんからの嬉しい報告から数日後、美穂さんはママ友数人とランチに出かけました。雄太さんが幼いころからの、20年来の付き合いです。
他愛ない世間話を交わすうち、話題はいつしか子どもの近況報告へと移っていきます。
早速、息子の昇格を披露する美穂さんに、ママ友たちは一斉に感嘆の声を上げました。
「わぁ、凄いわね。昔からなんでもできる子だったけど、相変わらず優秀でうらやましいわぁ……。美穂さんの子育て、大正解だったってことね」
「これで、美穂さんの老後も安心じゃない? だって、いまの雄太くんがあるのは美穂さんのおかげなんだし、当然面倒見てくれるはずよね」
「そんなことないわよ~」と謙遜してみるものの、内心ニヤニヤが止まりません。
子どもの自慢がひととおり終わると、今度は夫の愚痴大会。ランチタイム終了までしゃべり尽くしたあと、ママ友との会話を反芻している帰り道、美穂さんはあることを思いつきました。
「息子がいれば、夫なんていらないかも……わたし、離婚してもやっていけるんじゃないかしら」
息子に離婚を相談→“まさかのひと言”に涙目
それ以来、美穂さんの頭のなかは「離婚」の2文字でいっぱいに。
しかし、いざ夫に「離婚」を切り出そうとしても、お金の不安がちらつき、すんでのところで思いとどまってしまいます。
「……そうだ、先に雄太に相談してからにしよう。いいアドバイスもらえるかも」
そう思い立った美穂さんは、早速雄太さんと外で会う約束を取り付けました。
美穂さんは開口一番、雄太さんにこう言いました。
「お父さんと離婚しようと思っているんだけど、どう思う?」
「はっ、なんで? ってか、離婚して母さん生活できるの?」
「まあ、貯金もあるし……お父さんの退職金を財産分与してもらえば、ある程度の資金は確保できると思うのよ」
「でも母さん、仕事もしてないし将来の年金も少ないでしょ」
「そうね~、それで……」
勇気を出して、美穂さんは言いました。
「それで、相談なんだけど。当面のあいだ、雄太のところで一緒に暮らせないかしら?」
その言葉を聞いた途端に、雄太さんは表情を曇らせました。しばしの沈黙のあと、意を決したように、雄太さんは言いました。
「……あのさ。この際だからはっきり言うけど、母さん、そろそろ子離れしてくれよ。離婚は勝手にすれば? だけど、俺は母さんと一緒に住むつもりはない。当然、援助する気もないよ」
自慢の息子からそんな厳しい言葉をもらうとは想像だにしていなかった美穂さんは、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けます。涙目で「そう、わかったわ」と言うのが精一杯でした。
