コーヒーとお茶にまつわるBetter Lifeのヒントを集めた、&Premium144号(2025年12月号)「コーヒーとお茶と、わたしの時間」より、『ADI』『Chiyaba』店主、『みんげい おくむら』店主・奥村忍さんのひと息つく時間、そのスタイルを訪ねました。



奥村さんが旅先で出合ったお茶と、お茶にまつわるもの。

中国や台湾への”茶旅”で、茶農家や店を訪れるのは奥村さんのライフワーク。「茶缶に保管していたプーアル茶や烏龍茶の熟成が進み、思いがけない旨味に出合うことも」

お茶を飲み切った後はそのまま捨てずに、何種類かをまとめて天日干しに。「ほのかにいい香りがするので、お手洗いや部屋のコーナーにさりげなく置いています」

「買い付けの旅はハードなので、朝・晩にお茶の時間をつくります。お茶のセレクトは旅程や体調に鑑みて。例えば、暑い地域に行く場合は、軽やかに飲める白茶などを」

中国茶の参考文献は、主に現地で制作されている雑誌など。「雑誌『知中』の特集『中国茶的基本』や『月刊茶道』はビジュアルも魅力的。中国語が読めなくても楽しめます」

7〜8年使って経年変化した様が味わい深い。「四川省の茶館ではこうした銅やかんが使われていて、並んでいる様子がすごく綺麗。実際、注ぎ口が細くて使いやすい」

丸い塊に圧して固めた、5g単位で売られている茶葉。「プーアル茶は平べったい餅のような形をした357gサイズが規格ですが、これは飲みきりやすいサイズが嬉しい」

多少の淹れにくさを感じても好きな蓋碗でお茶を淹れるのが奥村さんのスタイル。「薄い磁器製の蓋碗は、繊細でシュッとした外観がいい。綺麗な色のお茶に似合う」

陳皮を丸い形状に固めたもの。「中国では陳皮をお茶にして飲みます。少量を砕き、お湯を入れた蓋碗に入れて蒸らすととろみがある質感に。喉の乾燥を和らげてくれます」

藝品や中国茶を扱う『原色茶陶』が交流のある農家の茶葉を買い上げて、好みの味に製茶したもの。「『漳平水仙』というお茶。炭焙煎で熟成した、野性味溢れる味がいい」
飲むたびに味の奥行きを感じる、クラシックな茶葉を楽しむ。
『みんげい おくむら』の店主・奥村忍さんは、民藝や国内外の生活道具、中国の少数民族が使い続けてきた民具を求め、月の3分の2は旅に出る。現地での“茶旅”にも、夢中になっている。
「買い付けをしていると皆が皆、お茶を出して振る舞ってくれます。もてなすのが好きで、それが文化になっている。中国の一大産業として在り続けているお茶ですが、僕は手仕事的な側面を残した最も民藝的なものだと考えていて。中国では生活様式の多様化で伝統的な手仕事のものが失われつつありますが、お茶が作られる現場にものづくりの魅力を存分に感じています」
奥村さんは生活道具のみならず、お茶に関しても自分が体験して、感動したものを生活に取り入れ、人に紹介したいという一貫した考えがある。今年の春には、プーアル茶の産地である雲南省南部を訪れた。さらに中国の都市部にある「茶城」と呼ばれる茶問屋街を練り歩く冒険も続けている。
「気になった茶農家、茶城や茶藝館を訪れ、さまざまな種類のお茶を飲んでも自分が好きなお茶に出合えるかは、本当に未知数。実際、飲みすぎて飲み疲れてしまうこともよくありますが、自分が心からおいしいと思う、飲むと鳥肌が立ってしまうようなお茶に出合いたい気持ちが常にあります。いろんな寄り道を繰り返し、たくさんのお茶を飲み比べてわかったことは、僕はクラシックなお茶が好きだということ」
奥村さんが思わず唸る味わいは、華やかな香りだけを感じさせる表層的なつくりのものではない。
「最初の一口に、パッと華やかなアロマを感じるとインパクトが強く残るけど、簡単に作られているものはどうしても“煎が続かない”。力があるお茶は一煎、二煎、三煎と重ねるごとに味わいがどんどん深まっていきます。例えば、僕が好きな烏龍茶に炭で焙煎して作られているものがあって、それは一煎目では、茶の味わいはわかりやすく出てこないんです。一、二煎目に炭や焙煎の香りがぼわっと出てくる。その外側の焙煎の香りが取れたあとから茶葉の内側のエネルギーが出てくる。職人が炭火を熾し、茶葉を焙煎するときの火の温度のコントロールは、職人の技術に関わってくるところで、それが味に繋がっています」
福建省を旅したときに、同じ年に作られた炭焙煎と電気焙煎のお茶を飲み比べる機会があった。
「作り手の人たちは電気焙煎で作ったお茶のほうに自信があったようだけれど、自分は断然、炭焙煎のお茶が好みで。要は福建省の人の好みと僕の好みが異なっていただけなのですが、自分の好みの味を相手に伝えられると『じゃあ、こんなのはどう?』と提案してくれることも。それで、ピンとくるお茶に出合える確率が上がったりします」
やっと出合えたお茶を愛おしみ、蓋碗で丁寧に一煎、一煎淹れていく。旅の幸せな記憶を思い出し、再訪することに思いを馳せながら。


奥村 忍『みんげい おくむら』店主
国内外の手仕事の生活道具を扱うオンラインショップ『みんげい おくむら』を2010年にオープン。共著に『中国手仕事紀行 増補版』(青幻舎)がある。
photo : Yayoi Arimoto edit & text : Seika Yajima
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COFFEE & TEA / コーヒーとお茶と、わたしの時間。&Premium No. 144
お気に入りの一杯を手に、ほっとひと息入れる。それは暮らしのなかの句読点のような、心を整えてくれる時間です。深まる秋、今号のテーマは「コーヒーとお茶の時間」。コーヒー、紅茶、日本茶、中国茶、ハーブティー、野草茶…。スタイルのある14組のコーヒー&ティーライフから、おいしく淹れるコツ、使い心地のいい道具や読書案内、訪ねたい名店まで、コーヒーとお茶にまつわる Better Lifeのヒントを集めました。
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