
ふとした瞬間によぎる、「もし、病気になったら……」という不安。頼れる家族がそばにいない「おひとりさま」にとって、それはとても切実な悩みです。しかし、だからといってすべてをひとりで抱え込む必要はありません。血縁にこだわらず、信頼できる友人たちと“ゆるやか”に繋がりながら生きていく――。獅子にひれ氏の著書『定年が気になりはじめた50代おひとりさま女子たちのトリセツ』(ごきげんビジネス出版)より、そんな、心強い「老後の選択肢」について解説します。
おひとりさまだから、老後もひとりで暮らすという呪縛
「おばあちゃんになったら、みんなで近くに住もう。それで、お互い助け合おう!」
そう話してくれたのは中学時代からの親友です。私には彼女を含め、中学から付き合いが続いている友だちが数人います。かれこれ40年来の付き合いです。そのなかのひとりは結婚後遠方にいて、彼女が帰省するタイミングにあわせて集まれる人だけで集まる、ゆるやかな関係が続いています。年に1~2回顔をあわせる、この変わらない習慣が私には心地よいものです。
12歳で出会った私たちも、気がつけば50代半ば。結婚や出産、子育てを経た人もいれば、離婚を経験した人もいる、そもそもひとりでいることを選んだ人もいる……。それぞれの生き方が交差しながらも、学生時代の休み時間や放課後に交わした何気ない会話が、いまでも再現されるような空気感が私たちの集まりにはあります。
冒頭の一言は、私が老後ひとりで暮らすことへの不安を語ったとき、親友がかけてくれた言葉です。実は彼女も私と同時期に大病を患い、将来の健康に不安を抱えていました。両親を亡くし、兄弟姉妹や子どもがいない彼女にとって、夫が先立ったあとの老後を想像するのは心細いものでした。だからこそ「お互い近くに住もう!」とあたたかい提案をしてくれたのです。
この言葉を聞いたとき、私のなかには「そういう考え方もあるんだ」と新たな視点が生まれました。これまで、この先どうやってひとりで生き抜いていこうかと考えていた私には、頼り合う発想がなかったのです。ひとりでなんとかしなければという思い込みが、いつの間にか自分を縛っていたのかもしれません。でも、長い時間をかけて築いてきた友情があれば、支え合いながら歩んでいく選択肢もある。人生後半戦にきて、そんな友だちがいることを「財産」だとしみじみ感じます。
『団地のふたり』はもはやドラマではない?
ちょうどその頃にNHK BSで放送されたドラマ『団地のふたり』(脚本・吉田紀子)に私は見入っていました。団地育ちの幼なじみ、小泉今日子さん演じるノエチと小林聡美さん演じる奈津子が主人公で、あたたかくユーモラスな友情の物語。人生の浮き沈みを経て、昭和の団地に戻ってきた50代半ばのふたり。それぞれの「おひとりさま」の暮らしが、団地コミュニティでの人とのつながりを背景に穏やかに描かれています。ユーモラスであたたかい友情を描いた物語は、前向きでマイペースな生き方の魅力を教えてくれるものでした。
ドラマを見ながら、いくつになっても「根っこ」は変わらないのだと感じ、中学時代からの友だちとのやりとりを思い出しました。「いつかみんなで団地に移り住む」という未来が突然リアルに思えた瞬間です。
現実的に考えてみると、同世代の友人たちと近くに住む、という選択には多くのメリットがあります。互いの体調を気にかけ合ったり、日々の買い物を助け合ったり、時には愚痴を聞き合ったり。血縁関係にはない自然な距離感を保ちながら、必要なときには支え合える関係。これこそが、これからの時代の新しい家族のような「かたち」なのかもしれません。
ドラマのなかの50代独身という設定が、まさに現代を反映したものに思えます。いずれ「おひとりさま」になっていく予備軍も含め、おひとりさまの抱える課題は多くの私たちが直面するものだとあらためて感じました。孤独への不安、健康への心配、経済的な不安定さ。これらは決してひとりだけの問題ではなく、社会全体で考えていくべき課題でもあります。
ここからは、そのようなさまざまな課題とどう向き合うかを一緒に考え、将来への具体的な道筋を探っていきます。ひとりであることの強さを大切にしながらも、人とのつながりのなかで豊かに生きていく方法を、考察していきましょう。
50代、「終の棲家」について考えたことはありますか?
『団地のふたり』のような友人同士で支え合う暮らしも魅力的ですが、現実問題として、私たちは自分の住まいについて具体的に考えておく必要があります。50代のいまだからこそ、終の棲家について真剣に向き合う時期なのかもしれません。
そんなことを考えていたとき、以前に観た映画『老後の資金がありません!』(監督・前田哲、脚本・斉藤ひろし)を思い出しました。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。50代にとって、タイトルがあまりにも切実ですが(笑)、私はこれを見たとき「これは映画の世界の話ではない」と老後のことをリアルに考えさせるものでした。
天海祐希さん演じる節約志向の主婦が、舅の葬式、娘の結婚、夫のリストラと自身の派遣切り、姑との同居で豪遊っぷりに悩まされる、など次々にお金にまつわるトラブルに見舞われる様子を、ユーモアたっぷりに描いたコメディ映画。老後の資金計画が思うようにならなかった夫婦が終の棲家として選んだのがシェアハウスという結末には、そういう選択も今後選択肢のひとつになるのかもとハッとさせられました。
現実の住まい選びを考えてみると、賃貸住宅、持ち家、実家での同居に加え、新たな選択肢があるように思います。それぞれにメリットとデメリットがあり、人生のどの段階で何を優先するかによって最適解は変わってきます。
賃貸住宅という選択
賃貸住宅の最大の魅力はライフスタイルの変化に応じて柔軟に住み替えられるよさがあるところ。転職や健康状態の変化、近所付き合いの問題など、さまざまな理由で住環境を変える必要が生じたとき、身軽に対応できます。また、建物の老朽化や設備の故障などは大家さんの責任で修繕してもらえるため、突発的な大きな出費を避けることもできます。
しかし高齢になると転居はしにくいです。申し込み時に健康で貯蓄があっても、入居審査が通らない場合もあるといいます。高齢者に多いのが、孤立死のリスク、健康状態が悪化して医療費や介護費などの支出が増え、家賃を滞納するケース。大家さんにとってもリスクが高いと判断されるため、そうした理由から懸念されるようです。
定年後も家賃を払い続けなければならないプレッシャーは、年金生活に入ってから重くのしかかってくる可能性があります。
持ち家という選択
持ち家の場合、快適な暮らしを長く楽しめるように思いますし、老後の暮らしへの備えという点から、収入が安定している定年までにローンを完済しておいたほうが安心感が出るでしょう。自分の好みに合わせてリフォームや改装ができることも大きなメリットです。
ただし、老朽化してリフォームや修繕が必要になるなど、老後の暮らしのなかで発生してくる資金をあらかじめ計画的に備えておく必要があります。とくに水回りや屋根の修繕、給湯器の交換などは、一度に数十万円から数百万円の費用がかかることもあるでしょう。固定資産税や町内会費などの維持費も継続的にかかってきます。
実家という選択
なかには実家で両親と暮らしている人もいます。住居費をおさえられることや、両親の見守りができることは大きなメリットです。慣れ親しんだ地域で暮らし続けられる安心感もあります。その場合、両親の介護が必要になったときのサポート体制なども考えておくべきです。
介護の負担がひとりに集中しないよう、兄弟姉妹や親族との連携、地域の介護サービスの活用なども視野に入れておく必要があります。両親亡き後の住まいをどうするかも重要な検討事項です。
新しい住まいの選択肢
昨今では映画で描かれたシェアハウスのほかにも、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、コミュニティハウスなど、従来の住まいの概念を超えた選択肢も増えています。これらの新しい住まいのかたちは、住居と介護・医療サービスが一体となっていたり、同世代の住民同士のコミュニティが形成されやすかったりする特徴があります。
共有スペースでの食事や趣味活動、日常的な見守り合いなど、「人とのつながり」が自然に生まれる環境が整っているでしょう。おひとりさまにとって、孤独感をやわらげながら安心して暮らせる環境といえるのかもしれません。
高齢期の住まいについて、まだまだ先のことのように思えますが、早い人は50代後半から介護サービスなどがある施設に入居しながら会社通勤している人もいると聞き、驚いたことがあります。
終の棲家を考えることは、単に住む場所を決めることではありません。これからの人生をどう生きていきたいか、どんな暮らしを理想とするか、そして何を大切にしたいかを見つめ直すきっかけでもあります。50代のいまだからこそ、選択肢が豊富にあるうちに、じっくりと考えてみることが大切なのではないでしょうか。
獅子にひれ
ライター/AFP
※本記事は『定年が気になりはじめた50代おひとりさま女子たちのトリセツ』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
