
お正月の慣習である「お年玉」。子や孫の成長を形にして祝う日本独自の文化ですが、主な収入が年金であるシニア世代は、お年玉の捻出に頭を悩ませることも少なくありません。そんななか、中塚秀夫さん(仮名・68歳)は、まとまった収入があるにもかかわらず、あえてお年玉を減額。その決断の背景には、息子夫婦の「思い込み」と「甘え」があったようです――。事例をもとに、「孫破産」の落とし穴と親子間のお金の向き合い方をみていきましょう。
孫へのお年玉を「あえて減額」した60代夫婦
「え~。じいじ、お年玉これだけ? 去年はもっとくれたのに!」
親戚一同が集まったお正月の宴席。孫の碧ちゃん(仮名・7歳)のひと言に会場は「ドッ」と沸き、大盛り上がりです。しかし、その中心にいる中塚秀夫さん(仮名・68歳)だけは、ただ苦笑いするしかありませんでした――。
秀夫さんは公務員として、同い年の妻・恵子さん(仮名・68歳)は建築会社の事務員として定年まで勤めあげ、夫婦は堅実に老後資金を準備してきました。2人の退職金はあわせて4,000万円で、現在の年金収入は月27万円。決して経済的に困っているわけではありません。
それでも、今年の碧ちゃんへのお年玉を1万円から1,000円へと大幅に減額したのには、明確な理由がありました。
親の財布をあてにする息子夫婦に“限界”
背景にあるのは、息子夫婦からの“おねだり”です。
最初は「保育料や住宅ローンで家計が苦しく、習い事の月謝が負担だ」という理由から、夫婦が代わりに碧ちゃんの習い事の月謝を負担することに。もともと、孫の欲しがるおもちゃなどは「喜ぶ顔がみたい」とすぐに買い与えるところがあった秀夫さんは、「孫の教育のためなら仕方ない」と承諾し、払い続けていました。
すると、「SNSで話題の子ども服ブランドのアイテムを買ってほしい」「健康が心配だから無農薬の野菜を食べさせたい」など、その要求はどんどんエスカレートしていきます。
「いわれるがまま援助を続けていると、このままでは自分たちの老後資金が不足する。それになにより、息子夫婦が経済的に自立できなくなる」
そう考えた秀夫さん夫婦は、ある日息子の悠介さん(仮名・34歳)に向かってこう宣言しました。
「これ以上、お前たちに過度な金銭援助はできない。親の金を当てにせず、身の丈に合った暮らしを考えたらどうだ」
その最初の意思表示が、お年玉の減額だったのです。
しかし、この秀夫さんの対応に、息子の悠介さんは不満を露わにしました。
息子のリアクションに怒り心頭
「そうだよなあ、碧! よく言った。親父、なんだよこれ! 碧がかわいそうだろ」
日頃から「お金は親を頼ればなんとかなる」「孫のためと言えば出してくれる」と考えていた悠介さん。秀夫さんはその本音が透けて見え、怒りをこらえ切れず、思わずその場で叱責しました。
「いい加減にしなさい! 金ばかり要求して、本当にそれが子どものためか? よく考えてみろ」
温厚な父の思わぬ剣幕に、悠介さんはただ黙りこむしかありませんでした。
「孫破産」の原因は“孫以外”にあることも…
近年、メディアなどで「孫破産」という言葉を目にする機会が増えました。これは祖父母が孫のためにお金を出し過ぎた結果、老後資金が底をつき、生活が立ち行かなくなる状態を指す言葉です。
なかでも、学費や習い事の月謝といった継続的な支出は、一度始めると数年単位で固定化され、途中でやめにくい性質があります。そのため、最も「孫破産」につながりやすいといえます。
では、なぜ破産するほどのお金を出してしまうのでしょうか?
本事例のように、子どもから露骨な無心があったとしても、「これはまずい」と気づいた時点で援助をきっぱりと断ち切ることができれば問題は大きくなりません。しかし、実際にはそれができず、破綻寸前まで援助を続けてしまう人も少なくないのです。
ずるずると続いてしまう背景には、自分の家計状況を正確に把握できていないパターンもあれば、「義娘の実家は100万円援助しているらしい」といった周囲との比較から見栄を張り、「お金がない」と言い出せないパターンなど、さまざまな事情があるようです。
しかしそれは、孫への愛情とは無関係であるケースも珍しくありません。
高齢夫婦の多くは、年金を主要な収入源とする「無職世帯」です。孫への援助が年金世帯の生活基盤を揺るがす可能性があることを自覚するとともに、「シニア世代はお金を持っているはずだ」というイメージを抱きがちな子世代に対しては、年金生活の実態を率直に伝えることも、ときには必要なのかもしれません。
叱責後に“連絡が途絶えた”息子家族のその後
秀夫さんが叱ってから、息子夫婦からの連絡は途絶えました。
(孫の習い事はどうなったのだろう、洋服は、日々の食事は……?)
そんな心配が頭をよぎることもありましたが、「親として必要な言葉だった」と後悔はしていなかったといいます。
そして数ヵ月後、久しぶりに悠介さんから電話がありました。
「娘の送迎用に検討していた高級車を諦めて塾代を捻出した」「複数あった習い事を本人に選ばせてピアノに絞った。ひとつだけなら自分たちの収入でなんとかなる」
……息子たちがようやく経済的自立への一歩を踏み出したと感じ、秀夫さんの目には思わず涙が浮かんだそうです。
高齢化が進む社会では、親自身が経済的に自立し、心身ともに健康でいることが、回り回って子どもや孫にとって最大の支援になるという考え方もあります。それぞれが将来を見据えた生活を送りながら、本当に必要なときに支え合える基盤を整えていきたいものです。
山原 美起子
株式会社FAMORE
ファイナンシャル・プランナー
