「お金、残ってたらラッキーだと思って」…遺産1.2億円・年金月7万円、87歳亡母の金庫に遺された〈手書きの遺言〉に4人きょうだい騒然。その後みつけた〈追伸〉に“次女だけ”が泣き崩れた理由

「お金、残ってたらラッキーだと思って」…遺産1.2億円・年金月7万円、87歳亡母の金庫に遺された〈手書きの遺言〉に4人きょうだい騒然。その後みつけた〈追伸〉に“次女だけ”が泣き崩れた理由

「遺言書さえあれば安心」というのは大きな誤解です。法的に完璧な書類が、かえって家族の絆を壊すこともあります。大切なのは「わけ方」以上に、その裏にある「想い」を伝えること。本記事では相続の相談業務を専門に請け負う株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが、Aさんの事例とともに、相続に本当に必要なものを問い直します。

遺言書ブームの落とし穴

相続トラブルを避けるための「一丁目一番地」といえば、遺言書です。 近年、その意識は急速に高まっており、日本公証人連合会の統計によれば、公正証書遺言の作成件数は令和6年に約12万8,000件に達し、この10年で最多を記録しました。また、法務局での自筆証書遺言保管制度も累計10万件を超えるなど、「遺言書を残す」ことはもはや常識になりつつあります。

しかし、現場で多くの相続に立ち会う筆者は、遺言書の普及と同時に、ある複雑な心境を抱いています。「法的に完璧な遺言書さえあれば、家族は幸せになれるのだろうか?」という問いです。

今回は、「あえて形式をまったく満たしていなかった遺言書」が、バラバラになりかけた家族の心を一つにした、ある一家の事例をご紹介します。

※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当て、一部脚色を加えて記事化しています。

幸せな老後を支えた、次女の献身

83歳のAさんは、数年前に夫を亡くしたものの、関西の地方都市で活気に満ちた一人暮らしを送っていました。4人の子どもたちは東京、福岡、アメリカ、大阪と各地に散らばっていましたが、唯一地元に残った次女だけが、Aさんの生活と家計を一身に支えていたのです。

Aさんの老後の柱は、月額約7万円(年額80万円強)の国民年金。それだけでは心許ない金額でしたが、亡き夫が遺したアパートの賃料収入が毎月20万〜25万円ほど入り、これがAさんの穏やかな生活の源泉となっていました。

しかし、この「安定」は、次女の献身的な努力の上に成り立つものでした。老朽化したアパートの修繕対応から入居者管理の雑務、さらには毎年の確定申告まで。次女は母のために、アパート経営が滞りなく進むよう、これら煩雑な業務をすべて無償でサポートし続けてきました。

Aさんの資産は、自宅(4,000万円)とアパート(5,000万円)、預貯金の3,000万円を合わせて総額約1億2,000万円。 「もしものとき、遠方の兄姉と揉めたくない。これだけお母さんのために動いていることを、皆は理解してくれるだろうか……」不安を募らせる次女に対し、豪快なAさんはいつも笑ってこう答えました。「大丈夫、ちゃんと遺言書を書いて金庫に置いてあるから!」その勢い任せな物言いに、次女は一抹の不安を覚えます。しかし、親の死後を深く詮索することは不謹慎にも感じられ、それ以上の追及はできずにいました。

金庫からみつかった、一見「役に立たない」遺言書

Aさんが87歳で旅立ったあと、親族が揃って金庫を恐る恐る開けました。中から出てきたのは、公正証書ではなく自筆で書かれたと思われる「遺言書」と記された封筒。開封した子どもたちが目にしたのは、あまりにも「曖昧な」文言でした。

「自宅は次女以外の3人でわけなさい」

「アパートは次女に任せます」

「残ったお金は4人で仲良くわけなさい」

この遺言書だけでは相続手続きをスムーズに進めるのは困難といわざるを得ません。「自宅」や「アパート」がどの不動産を具体的に指すのか特定できず、売却するのか共有するのかも不明瞭。登記などの各種手続きを進めるには、法的な要件が極めて不十分だったのです。

「え? これをみてなにをすればいいの? このままでは泥沼化する……」次女が生前抱いていた不安は的中し、相続手続きに暗雲がたちこめました。

母の「呪い」と「愛」が覆した結果

ところが、封筒の中には、もう一枚の便箋が入っていました。そこに記されていたのは、財産のわけ方ではなく、家族へのメッセージでした。

夫との思い出、6人での家族旅行の楽しい記憶、そして遠く離れた子どもたちへの変わらぬ愛。特筆すべきは、文末に記された一文でした。

「いままでみんなのお陰で楽しかった! 遺言も書いたから大丈夫。でもね、残ったお金は私が使い切る気満々だから、お金が残らずなくなっていたらごめん! そのときは次女を尊重して財産わけしてよ。……喧嘩なんかしたら、絶対に化けて出てやるからね。覚えておいてよ!」

この「Aさん節」全開のメッセージを読んだ瞬間、4人がそろった室内の緊張感は一気に溶けました。兄姉たちが思い出したのは、母の楽しそうな笑顔と、それを陰で支え、月20万円の賃料を守り続けてくれた次女の姿です。きょうだいで一番上の長男がいいます。「本当にお母さんらしいね。これまでお母さんのことを次女に任せきりで悪かったね。ありがとう。お母さんの気持ちをみんなで尊重しよう」弟妹も笑顔でうなずきます。きょうだいたちの反応に、次女は思わず泣き崩れてしまいました。

法的な不備はあったものの、子どもたちは母の思いを汲み取り、次女のこれまでの貢献を正当に評価する形で分割協議をスムーズに成立させたのでした。

形式と同じくらい大切なもの

もちろん、法的効力を持つ公正証書遺言を遺すことが王道である事実に変わりはありません。Aさんのケースは、家族の絆と彼女のキャラクターがもたらした、奇跡的な「まぐれ」なだけ。たまたま上手くいった事例に過ぎないのかもしれません。

しかし、法的に完璧なだけの遺言書は、場合によっては「無機質な事務書類」に映ります。「なぜ、あのきょうだいに多く遺したのか?」理由が書かれていない「数字だけの指定」は、かえって残された者の不信感を生むことさえあるのです。

相続対策とは、単なる「財産の整理」だけではなく、自分の「人生の仕舞い方」を伝える作業です。法的要件を満たした遺言書に、もう一歩「付言事項(メッセージ)」を添えることの重要性を、改めて考えさせられます。

Aさんのように「化けて出てやる!」と笑わせる必要はありませんが、ときにユーモアや感謝を交えたあなたの言葉があるだけで、残された家族の納得感は大きく異なります。財産わけのその先に、あなたは家族にどんな表情でいてほしいでしょうか? 形式を整える労力と同じくらい、言葉を遺すことにも目を向けてみてはいかがでしょうか。

森 拓哉

株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン

代表取締役

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