
金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によると、60歳以上の単身世帯で金融資産保有額が3,000万円以上の割合は15.6%、70歳以上では17.5%でした。老後にこれだけの資産があれば一生安泰のように思えますが、こうした“裕福な高齢者”のなかには、思わぬ悩みを抱えた人もいるようです。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
単身高齢者の“ふところ事情”二極化が進む
金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によると、金融資産を保有していない世帯を含む単身世帯で、60歳代の金融資産保有額の平均値は1,364万円、中央値は300万円です。
同様に70歳代の平均値は1,489万円、中央値は500万円と、どちらの年代も平均値と中央値には1,000万円近くの差があります。
なぜこのような差が生じるのか。詳しくみていくと、60歳代の金融資産非保有率30.4%と300万円未満の保有率15.8%を合わせて46.2%、対して、保有額3,000万円以上は15.6%でした。同様に、70歳代の非保有率20.4%と300万円未満19.4%を合わせて39.8%、一方、保有額3,000万円以上は17.5%でした。
“高齢者はお金持ち”というイメージがあるかもしれません。しかし実際には、「裕福な高齢者」と「貧困に苦しむ高齢者」の二極化が進んでいるのです。
もっとも「裕福な高齢者」のなかには、そのお金の使い方に悩む人もいます。
資産はあっても使えない65歳独居老人の事情
以前、FPである筆者のもとに、退職金を含めて約1億円の金融資産を所有している男性Aさん(65歳・独身)が訪ねてきました。聞くと、自分が作成したライフプランで家計は破産しないか、その確認とプラン実行へのアドバイスがほしいとのことです。
Aさんは60歳まで公務員として勤めて、定年後はとある企業の常勤顧問を5年間務めました。現在、住宅ローンを完済した1LDKのマンションに住み、月23万円の老齢厚生年金で、現在の生活にはなんの懸念もありません。
また現役中は、実家の事情もあり質素倹約を心がけていたといいます。
Aさんが抱えていた“実家の事情”とは
実家の事情とは、6歳年下の弟Bさんの存在です。弟のBさんは、就職と同時に実家を出たAさんと違い、実家で両親と妻と子ども、3世代で生活していました。
そのため、両親が年老いて介護が必要となった際、Bさん家族に頼りっぱなしだったそうです。そのため、せめてお金は自分が出そうと決めたAさん。Bさんの言うとおりに、両親に必要な費用を都度負担していました。
弟の要求がエスカレート
そんなAさんに、Bさんはいつごろか「兄貴は独身だからいいだろ、頼むよ。かわいい甥っ子と姪っ子のためにさ」と言って、両親だけではなく、甥や姪の教育費などもせがんでくるようになったといいます。
Aさんは両親の面倒を看てもらっている負い目もあり、多少のことは仕方がないと、言われるがまま送金していました。
そんな事情もあり、いつどれくらいのお金がかかるかわからないと、貯めた資金を自由に使えない事情があったのです。
しかし、両親が相次いで逝去。その際、Aさんは両親の遺産相続を放棄して、Bさんがすべてを相続しました。
そこでAさんは、もう自分に家族はいないのだから、貯めたお金を使おうと決心します。しかし、いざ使おうとしても、良い案が思い浮かびません。そこでAさんは、将来まで見据えたライフプランを作ることにしたのでした。
Aさんが自作したプラン
1.終の棲家を決める(予算4,000万円)(1)現在のマンションに住み続ける
(2)バリアフリーで安否確認と生活相談が付いた賃貸住宅「サービス付き高齢者向け住宅」に入居
(3)高齢者向けの分譲マンションを購入
2.今後10年間は積極的に旅行する(予算2,500万円)
(1)前職の退職者旅行倶楽部に入会して、少なくとも10年間は健康な限り参加(月1回)
(2)毎年1回か2回、世界各地を周遊(1回あたり150万円前後)
3.老朽化した母校に、現金1,000万円を寄付する
4.自分の遺産は、甥と姪で均等に分ける遺言書を作成する(弟には渡さない)
5.資産管理や生活のサポートにかかる費用は惜しまない(費用は今後見積もる)
Aさんが自作したライフプランの注意点
Aさんのライフプランについて、1.終の棲家の(2)と(3)については、現在のマンションを売却した売却益も含めて資金とするということでした。この場合、住み替えに係る譲渡課税等について、税理士に相談する必要があるでしょう。
またAさんは、弟のBさんについて「正直『甥と姪のため』という名目でかなりの額を援助しました。そのうえ遺産まで渡して贅沢させるつもりはありません」と話します。そのため、遺言書にはBさんの名前を書かなかったそうです。なお、被相続人の兄弟姉妹は遺留分を請求できません。
とはいえ、「両親の介護という恩があるのは確かであり、迷惑はかけたくない」と考えたAさんは、自身の葬儀費用として、Bさんを指定受取人とした死亡保険金500万円の生命保険に加入しているとのことでした。
帰り際、Aさんは「お金は貯めるより使うほうが難しいですね」と苦笑していましたが、質素倹約を身に付け、さらに将来のお金の使い道まで考えているAさんであれば、満ち足りたセカンドライフを過ごせることでしょう。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
