
内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」によると、高齢者(65歳以上)の持ち家率は87.4%でした。およそ9割近い高齢者がマイホームを所有している状況ですが、実はそのなかに「マイホームなんて買わなければ良かった」と後悔している人もいるようです。現役時代は社宅で暮らし、定年後に家を買ったとある夫婦の事例をもとに、「老後の住まい選び」の注意点をみていきましょう。
社宅生活で倹約→念願のマイホームを手に入れた夫婦
「いつか自分たちのマイホームを……」
その思いを胸に30年以上にわたり社宅で暮らしてきたとある夫妻。夫のAさん(65歳)は中堅メーカー勤務、妻のBさん(64歳)は専業主婦でした。
妻Bさんの徹底した家計管理に加えて、家賃の負担が軽い社宅生活を続けたことで、Aさんの退職時点で夫婦には約5,000万円の貯金がありました。また、二人の年金受給額は月24万円ほど。
これまでの倹約生活により「24万円もあれば年金だけで暮らしていけるはず」と、ついに念願の持ち家の購入を決心します。
そんな二人が見つけた物件は、団地のリノベーション済み物件。価格は1,500万円で築年数は40年、5階建て・エレベーターなしの4階でした。
エレベーターがないため1階もしくは2階を第一希望としていましたが、仲介業者の担当いわく「満室でいつ空くかわからない」とのこと。
二人は迷いましたが、「内装がフルリノベーションされていてきれい」「駅から徒歩圏で利便性抜群」「マンションの敷地内に公園がある」という点に惹かれたほか、約1,500万円という価格も魅力でした。
結局、「家を買うつもりなのに、わざわざ家を借りて家賃を払うのはもったいない」「年を取って賃貸暮らしだと子どもが心配する」と考え、購入を決めたそうです。
しかし入居から10年が経ったいま、夫婦は深い後悔を口にします。
第一の誤算は、築古ゆえの管理費と修繕積立金でした。管理費や修繕積立金はインフレの影響もあって値上がりし、気づけば年間の支払いは40万円近くに。年金生活者にとって、その負担はボディーブローのように家計を圧迫します。
第二の誤算は、管理組合の機能不全です。住民は高齢化しており、総会に出席する人はほとんどいません。重要な修繕の可否や依頼先が決まらず、廊下の照明や公園の手入れひとつに何ヵ月もの議論が必要だったといいます。
夫婦がもっとも後悔したポイント
そして、AB夫妻が後悔していた一番の原因は「階段」でした。購入当初は「健康にいいね」と笑いあっていたそうですが、年を重ねるごとにその余裕がなくなったといいます。いまでは外出に強い抵抗があるため、子どもに教えてもらってネットショッピングを駆使しているそうです。
「もう限界……いまでもこんなにキツいのに、80代でこの階段を使うのは無理だ」
終の棲家としてふさわしくないと考えた二人は現在、集合住宅の1階もしくは中古の平屋住宅への住み替えを検討しはじめました。
「老後の住まい選び」の注意点
内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」によると、高齢者(65歳以上)の持ち家率は87.4%と、9割近い高齢者が持ち家で暮らしています。こうしたなか、「住まいに対する後悔」を抱える高齢者は少なくありません。
これまで筆者が受けた相談や周囲の話を聞く限り、下記のような認識で家を選ぶと、後悔につながるケースが多いようです。
1.「いま」の便利さや見た目だけで判断する
築年数・管理組合の体制・長期修繕計画は確認しておく
2.階段や段差を「まだ大丈夫」と過小評価
「70代、80代になっても住み続けられるか」を想像する
3.管理費・修繕積立金の上昇リスクを軽視
年金生活における固定費の重さは家計に直撃する
4.管理組合の活動を確認しないまま購入
住環境は住民の質と意識で大きく左右される
特に、築古物件は購入費が抑えられるという魅力の裏に、「維持費の増加」「バリアフリー未対応」「個人の判断で共有部分に手を加えられない」といった課題が潜んでいます。
「いまの自分が満足するか」はもちろん大切ですが、それと同じかそれ以上に「未来の自分」に合わせた住まい選びが大切です。
老後は「移動のしやすさ」「買い物などの利便性」「周辺の医療環境」などが暮らしの質を大きく左右します。戸建や賃貸、介護施設など、さまざまな選択肢を比べながら柔軟に検討することが、後悔を最小限にとどめるポイントです。
AB夫妻の「住み替え」家計に問題はないか
では最後に、AB夫妻が検討している住み替えについて考えてみましょう。
AB夫妻はそれぞれ75歳と74歳で、現在の貯金は約3,000万円とのこと。また、毎月の生活費は月24万円の年金でやりくりできているため、残った貯金で医療費や介護費用は問題なさそうです。
10年前の時点で築40年だった物件は、10年経過して築50年になっています。とはいえ、周りの生活環境が整っていたり、部屋が綺麗であったり、住まいとして魅力的であれば売却は可能です。
さらに近年、インフレの影響もあり不動産価格が上昇しているため、購入時とほぼ同額での売却が可能でした。
一方、10年前と同程度の予算・条件で住み替え先を探すのは難しいため、子どもとも相談しながら、場合によっては賃貸や老人ホームなど、持ち家にこだわらず柔軟に考えてもよいかもしれません。
住まい次第で「幸せな老後」となるか「後悔の日々」となるか、選択を誤ると人生の満足度が大きく変化します。将来後悔をしないためにも「老後の住まい選び」は慎重に、時間をかけて吟味したいものです。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役
