
「おひとりさま」の事情は実に多様です。生涯独身の人、親族と絶縁状態にある人、事実婚パートナーがいる人……。しかし、どんな事情であれ共通して立ちはだかるのが、「法的な親族」でなければ死後の手続きが極めて難しいという現実です。本記事では、西川満則氏、福村雄一氏、大城京子氏、小島秀樹氏共著の書籍『終活の落とし穴』(日本経済新聞出版)より、個々の複雑な事情に合わせ、自分の望む最期を実現するために不可欠な「死後事務委任契約」の活用法を解説します。
「おひとりさま」と一口にいっても事情は様々
「おひとりさま」も様々です。全く相続人がいない方もいる一方で、相続人はいるけれど疎遠になっていたり、財産を渡したくないといった事情のおひとりさまもいらっしゃいます。まずは、自分が思う家族と、法律上相続が関係する家族が一致しているかを確認することが第一歩になります。思わぬ人が相続人になる人もいるでしょう。全く相続人がいない方の場合、財産は最終的に国に帰属してしまいます。
誰が相続手続きの関係者になるかを把握し、誰に何をどれだけ引き継がせたいかを考えることが大事になるでしょう。その気持ちを叶える手段が遺言書です。遺言書の作成を検討するといいでしょう。
あと、おひとりさまの万が一の時に気をつけることは、死後の手続きをしてくれる人を見つけておくことです。亡くなった後は自分自身で手続きすることはできません。役所も簡単に手続きを行うことはできません。この人に頼みたいという人を見つけて、死後の事務手続きを委任する契約(死後事務委任契約)を結んでおくと安心です。
おひとりさまの相続対策「死後事務委任契約」
本人が亡くなった後の事務手続きを、契約によって依頼することを死後事務委任契約といいます。「死後」の代表例といえば、遺言でしょう。ただし、遺言は遺産に関してのみ法的効力を有するものです。葬儀や埋葬などの死後の事務は、遺言の付言事項で言及しても法的な効力はないため、注意が必要です。
死亡後に葬儀や納骨、遺品整理、契約の解約や清算が必要な人に活用してほしい仕組みが「死後事務委任」です。「死亡」後の心配事は、遺産相続だけではありません。そもそも死亡直後のさまざまな手続きが終わらなければ、相続の話も始まらないのが一般的でしょう。
[図表1]死後事務委任契約とは? 出所:筆者作成
おひとりさまの死亡届は誰が出す?
例えば「死亡届」。ところで、おひとりさまの死亡届は誰が出すのでしょうか。「友人に出してもらえばいい」、そう考えている方も多いようです。しかし、実は不動産を管理する人たち(家主、地主、家屋管理人、土地管理人など)、もしくは後見人(保佐人、補助人、任意後見人、任意後見受任者)しか提出できません。
「死後」のさまざまな手続きを家族や親族に一切頼みたくないという意思を持っているおひとりさまも大勢います。該当する方は、死亡届の提出をはじめとする死後の手続きなどをどうするか、について考えておく必要があります。
まず死亡届については、任意後見人や法定後見人が選任されていれば解決します。ただし成年後見制度は本人の判断能力を補完するもので、サービスの提供は基本的に「生前」のみです。死亡届の提出はしてもらえますが、葬儀やお墓の管理はお願いできません。「死亡届の提出を最後に、その契約は解消される」と捉えると分かりやすいでしょう。
そのため、もしも葬儀やお墓の管理、様々な料金の清算などを誰かに託したいという場合は、成年後見制度とは別に死後事務委任(エンディング)の契約が選択肢となります。死後事務委任とは、本人が亡くなった「後」の事務手続きを委任する制度です。誰に何をどこまでやってほしいかを書面にして遺します。遺言は、財産を誰にどれだけ遺すかを示すものですが、死後事務委任では葬儀の手続きや、お墓のことなどを委任できます。
ただし死後事務を委任された「死後事務受任者」は、後見人と異なり死亡届は提出できません。そのため、任意後見契約とセットで契約することをお勧めしています。これは司法書士などの法律職だけでなく、親族や友人などにお願
いすることも可能です。
認知機能が低下する前なら、遺言書の作成と死後事務委任契約をお勧めします。公証人は病院に出張してくれるので、時間的な余裕があれば公正証書遺言を、時間的な余裕がなければ自筆証書遺言をお勧めします。そして死後事務委任契約をする際に、亡くなったあとに必要なお金の話をします。どれくらい必要であるかの話をする中で、本人の手持ちの資産がどれくらいあるかを踏み込んで聞いていき、「預かり金」という形で生前に必要な金額を預かります。また、遺言で遺言執行者に指名されていれば遺産を調査できるので、遺言執行者になり、財産調査をします。
財産状況が具体的になれば、親族の対応が変わる可能性もあります。自分たちが負担しなくてもよいことが安心材料になるからです。また、葬儀などの段取りは契約した司法書士などが行い、親族への負担もなくなります。さらに遺言の内容を実現する遺言執行者に就き、かつ死後事務委任契約で死後に事務を担う立場になることができれば、身寄りがない状態を脱することができます。
これらは家族がいればできるようなことです。具体的には、亡くなると役所に保険証を返すなど、細々とした届け出があります。水道、光熱などさまざまな契約を切っていくということもあります。そのあたりは家族がいれば事務手
続きできるのですが、いないケースと、家族がいても関係性が悪い場合は本人以外の誰かが必要なのです。
「恐らく、やる人がいない」ときの手続きをする契約であり、最近は使われるケースが多くなっています。これは、それだけおひとりさまの数が増えていることを示しています。また、高齢の夫婦が、こうした手続きを難なく行うのは
難しい、ということも示しています。
自分が亡くなっても相続人に連絡してほしくなくても…
「死後」には、遺体の火葬・納骨が必要です。家族や親族がいない、あるいは何かしらの理由で疎遠になっていて引き取り手のない方の場合、「墓地、埋葬等による法律」によって、市町村が火葬することになります。その際に遺骨の
引き取りや火葬代の支払いのために、市町村が相続人を調査し連絡します。
[図表2]死後にどんな手続きが必要? 出所:筆者作成
「親子の縁を切りたい」「自分が亡くなっても相続人に連絡してほしくない」という相談を受けることがありますが、法律上、実の親子の縁を切ることはできず、市町村から何かしらの形で連絡が入ることになります。つまり、親子の縁は続いているのです。そのため何も対策をしないまま亡くなった場合、周囲に迷惑をかけたくないという気持ちとは裏腹に、多数の関係者を巻き込むことになります。
[図表3]死後事務委任手続きでできる主なこと 出所:筆者作成
それを防ぐためには、「死後事務委任契約」を司法書士との間で締結し、死後の葬儀と納骨、賃貸の家の残置物処理を進められるようにしましょう。死後事務委任契約とは、医療費や施設利用料などの支払い、葬儀や埋葬、行政への
届け出など、「死後」に必要となる様々な手続きを委任できる契約なのです。死後事務委任は、法律職に依頼することもできます。その法律職の報酬体系によって違いますが、手数料だけで30万円以上と、費用がかかります。葬儀代や死亡後に必要な支払いなどの実費も合わせると、死後に必要な経費は50万円以上することもあるので、法律職に死後事務を委任する場合は、最低でも合計100万円は必要でしょう。
[図表4]死後事務委任契約による仕組みづくり 出所:筆者作成
死後事務委任を友人に依頼する場合の注意点
一方、死後事務委任は友人など親族以外に依頼することも可能です。その際に大切なことを、次に述べておきます。遺言で友人に全財産を相続させることにして、死後の諸々もその友人にお願いする旨を遺言の付言事項に記載するという方法もあります。しかし先ほども触れたように、遺言は遺産相続以外に関して法的な効力を持ちません。友人が遺産のみを受け取って死後の事務処理を全て拒否してしまうことを、法的に防ぐことはできないのです。その点、死後事務委任は委任内容が契約として残っていることが強みとなります。
死後事務委任をお勧めしたいおひとりさまを図表5に示します。「おひとりさま」といっても「おひとり」に至った状況はさまざまで、また、パートナーがいても内縁や同性の場合は、家族・親族と認められていないために、「死後」の事務が行えないこともあります。
[図表5]死後事務委任契約の仕組みづくりはどんな人に必要? 出所:筆者作成
西川 満則
福村 雄一
大城 京子
小島 秀樹
