
高齢化社会が進む日本では、“終の棲家”として老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの高齢者施設を選ぶ人が増えています。しかし、施設に入居したあとに「想定していなかった問題」に直面するケースも少なくありません。81歳女性の事例をもとに、「夫婦の年金問題」と「高齢者施設選びの盲点」についてみていきましょう。
「施設に入れば安心だって、あの時はそう信じていました」
地方都市の静かな住宅街。ノリエさん(仮名・83歳)は、かつて夫と住み慣れた自宅の縁側で、力なく呟きました。
2年前、彼女は夫のユキオさん(仮名・当時83歳)とともに、住み慣れた持ち家を離れ、近所に新設された「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」へ入居しました。
当時、ユキオさんは転倒をきっかけに足腰が弱り、要介護状態。ノリエさんが一人で介護を担っていましたが、介助の重労働と夜間のトイレ介助や見守りで睡眠不足が慢性化し、限界を感じていました。
こうしたなか、二人は娘の提案もあり施設への入居を決めます。
夫婦の収入源は、夫18万円・妻6万円、あわせて月24万円の年金です。そのほか、約1,000万円の預金がありました。
一方、入居したサ高住は、入居一時金60万円、月額利用料26万円(家賃12万円、食費9万円、その他サービス費5万円)でした。
「貯金を取り崩せば、20年は大丈夫ね」
スタッフが常駐する安心感と、家事から解放された快適な生活に、「最高の選択だった」と満足していたノリエさん。しかし……
突如訪れた「穏やかな日々」の終焉
その平穏は入居からわずか1年半ほどで、ユキオさんの逝去によって失われました。
ユキオさんが脳梗塞で倒れてから亡くなるまでにかかった費用で、1,000万円あった貯蓄は激減。さらにノリエさんを追い詰めたのは、夫を失ったことで激減した「年金収入」という現実です。
自身の国民年金と遺族厚生年金を合わせた月額は約15万円。一方、サ高住の固定費は食費以外大して変わらず、月額は約22万円です。
こうしたなか、入居から2年が経つ頃には、ノリエさんの貯金は約300万円まで目減りしていました。
このままでは3年も持たずに資金が底をつく……施設側とも交渉しましたが、民間施設ゆえに値下げは叶いません。
施設長「誠に申し訳ありませんが、お支払いが難しいとなるとご退去いただくしかなく……」
結局、ノリエさんは入居からわずか2年で、サ高住を退去することに。幸い自宅は売っていなかったため戻る場所はあるものの、一人暮らしの不安と孤独に、ノリエさんの憂鬱な日々は続いています。
老人ホーム選びの盲点
自宅から介護施設への転居を検討するうえでは、次の3点に注意する必要があります。
1.夫婦の年金を前提に計算しない
夫婦で入居する場合、2人分の年金収入で生活費を計算するケースが多いです。しかし、現実には「どちらかが先に亡くなることで収入が減る」ことを考える必要があります。
2.施設費用は基本的に変わらない
夫婦のうち1人が亡くなっても、施設の家賃や管理費、サービス費は基本的にほとんど下がりません。そのため、収入は減るのに支出はほとんど変わらないという状態に陥ります。
3.介護度が上がると費用はさらに増える
ノリエさんは入居時自立していましたが、将来的には介護が必要になったり、病気で医療費がかかったりして月々の支出が増加する可能性もありました。入居時の費用だけで判断してしまうと、将来の支払いが立ち行かなくなるリスクがあります。
「後悔しない施設選び」のポイント3つ
介護施設への入居を検討するうえでは、次の3点を徹底しましょう。
1.1人になった場合の収支を正しく把握する
施設に入居する前に、「配偶者が亡くなった場合の収入で生活が成り立つか」を確認しておく必要があります。特に重要なのは、①遺族年金の金額、②生命保険や有価証券、③貯金の残高です。
「1人でも払い続けられる施設か」を判断基準にしておくと安心でしょう。
2.長期の資金計画を立てる
老人ホームは短期の住まいではありません。「どうせそこまで長生きしないから」と甘く見積もった結果、施設の利用料が支払えず退去した事例を、今回紹介したノリエさん以外にも複数知っています。
3.将来の介護費用も想定する
施設によっては「医療連携費」「看取り費用」などが、追加で必要な場合もあります。入居前に「その他の費用」についても必ず確認しておきましょう。
高齢者施設は安心して暮らせる一方、資金計画を誤ると住み続けられなくなるリスクがあります。
安心して暮らし続けるためにも、「現在の生活」だけでなく「将来の収入と支出」を見据えて、冷静に検討しましょう。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役
