
近年、富裕層のあいだでは資産運用の拠点や住む場所を日本以外の場所に移す動きが活発化している。トランプ政権が「通商」と「軍事」を一体化させた政策を推し進めるなか、取り残された日本人が苦しみ、海外の資産家から日本の資産が食い荒らされる未来が待っているかもしれない――。資産37億円を築いた不動産投資家・小林大祐氏の著書『2035年 増える富・消える富の見分け方 インフレ地獄を生き抜く資産戦略』(KADOKAWA)より、その理由と資産家を取り巻く激変する世界の現状をみていく。
沖縄の米軍すらグアムへ移転…富裕層が進める「日本脱出計画」
私の周囲でも、最近「日本はそろそろ危ない。早く海外に拠点を持ったほうがいい」と真顔で忠告してくる富裕層の仲間が増えている。実際、沖縄に駐留している米軍はグアムへの移転を進めており、日本は丸腰状態に近づいている。
[図表1]防衛省グアム移転計画 出典:防衛省・自衛隊ウェブサイト「グアム移転」
地政学的リスクの高まりを背景に、富裕層の間では「ファイブフラッグ理論」に基づいたリスク分散が、すでに常識となっている。ファイブフラッグ理論とは、世界各地を移動しながら生活する「パーマネントトラベラー(永遠の旅行者)」と呼ばれる人々の行動理念から生まれた理論だとされている。
本来は「国籍」「資産運用」「居住権」「事業(法人設立)」「余暇」という目的別に5つの拠点を持つことで、なるべく税金を払わずに有利かつ快適に暮らそうというものだが、近年は避暑や安全保障の観点からも生活拠点と資産を分散させるニーズは高まってきている。
富裕層日本脱出の先にある“奴隷”の未来
富裕層が移住先に「ドバイ」を選ぶ理由
基本的に税金がゼロのドバイは、その分散先のひとつとして人気だ。税金を払う必要がないとはいえ、実際は高い不動産を買わされるか、高い賃料を払わされるかのどちらかで、住むには相当にカネがかかる街ではあるが、富裕層が住所を置くには総合的に見てやはり有利な場所だ。
私も実際にしばらく住んでみてわかったのだが、空港から街が近くてアクセスが良く、出稼ぎに来ている外国人労働者と富裕層が住むエリアは完全に分かれているので、治安の問題もあまり気にする必要がない。さまざまな国から富裕層がやってくるので、値段は高いがうまい食事にも事欠かない。
ただしドバイは春と夏しかなく、春はいいが、夏は平均最高気温が40度を超え、とんでもない灼熱地獄だ。過ごしやすい時期にはドバイで過ごして、暑い季節には別の場所に行くというのが魅力的なプランになるだろう。
ドバイのような場所への富裕層脱出が続けば、日本はどうなるか。出ていくことができない人たちだけで、日本という国を継続していかなければならない。日本は税金が高い、社会保障費が高いといっても、トータルで見ればその多くを負担しているのは富裕層だ。
彼らがいなくなれば、残った人で同じ負担を分け合わなければならなくなり、現状と同じインフラや社会保障を維持することはできなくなるだろう。日本に留まる者は増税によって生活を圧迫され、逃げ場はない。国の奴隷となるしかなくなるのだ。
トランプ政権の“中国外し”が示す「経済協調」の崩壊
トランプ大統領の2期目がスタートして以降、世界中が彼の言動に振り回され、マーケットは大暴落も経験したが、それは事前にいくらでも予測できたことだ。
トランプ大統領の若いときの主義主張をYouTubeで見ることができるが、なにしろ彼のやっていることは若いころからまったく変わっておらず、1期目や選挙期間中に本人が主張し実践してきたことそのものであり、一貫して発言と行動が一致している。まさに言行一致、有言実行の人物なのである。
彼の政策の中で特に注目すべきは、これまでは別々の政策として進められてきた通商政策と安全保障政策が、関税政策によって一体化し進められている、という事実である。従来は、安全保障上や政治的には対立関係にある国同士であっても、そこには目をつぶって経済的にはそれなりに良好な関係を保って貿易を継続するというのがグローバルスタンダードだった。しかしアメリカは、今はサプライチェーンから中国を外すという明確な戦略に転換している。
その背景には、中国に技術や資源が流出した結果、アメリカの覇権が脅かされるようになったという事情がある。これからは通商と安全保障が一体のものとして扱われ、交渉のカードとして用いられることで、国と国との関係が大きく変化しようとしているのだ。
事実上区別されていた通商政策と安全保障が一体化するのは、別に今回が初めてではない。トランプ大統領の政策がかつてのブロック経済と酷似していることはすでに述べたが、通商政策と安全保障の一体化も、ブロック経済そのものであるともいえる。
トランプ政権下では金融市場の安定はもちろん、地政学的な安定が破壊されることがあってもおかしくはない。
スタグフレーションが見えてきても、都心不動産が“堅調”な理由
関税政策が進行すれば、物価は上昇する。当然、日本も例外ではない。日銀も植田総裁のもとで2025年12月に利上げを行い、今後も利上げを継続する姿勢だが、現実にはそれが難しい局面にある。なぜなら、賃金上昇が追い付かない物価上昇でスタグフレーションが本格的に顕在化し、日本人の購買力が一層低下するリスクが高まっているからだ。
[図表2]日本の物価は急上昇し、高止まりしている 出典:総務省統計局「消費者物価指数(全国・総合)」
賃金も金利もさほど上げられず、物価だけが上昇し、人々の生活は苦しさを増している。このような状況下では、さらなる金利の引き上げは困難で、政府や日銀は慎重な政策運営を強いられるだろう。
一方、不動産市況に目を向けると、トランプ関税によって為替が動くことがあれば、ドルから資金が引き上げられる局面が見られる可能性がある。こうした一時的な円高は十分想定されるが、それで海外からの買いがしぼんで都心の不動産価格が暴落するということは考えにくいだろう。
実際、今より円高だった数年前も、そして一時期の円安が落ち着いた現在であっても、中国人を中心とした海外の資産家は変わらず日本の不動産を買い続けている。海外からの2024年通年の国内事業用不動産投資額は4.66兆円と、2023年の3.96兆円を18%上回った。むしろ、今のような世界的に不安定な状況は、仮に外国人の購入規制が入ったとしても都心の不動産価格には追い風にもなっている。
世界にはさまざまな金融資産や投資対象がある中で、東京の不動産は割安なうえ、大きな値下がりも考えにくい比較的安全な資産だ。中国を中心に、海外の投資マネーが流れ込む構造はしばらく続くだろう。
小林 大祐
不動産投資家
