「かわいさ以上に心がしんどい」妊娠・産後うつはなぜ起きる?

第1回 ママも家族も知っておきたい「産後うつ」について
東京23区内のみで63人。2014年までの10年間で、自殺した妊産婦の人数だ。そのうちの3分の2が産後であり、約半数が「産後うつ」や精神疾患と診断されている。

「かわいさ以上に心がしんどい」妊娠・産後うつはなぜ起きる?

赤ちゃんが生まれて幸せいっぱいのはずなのに、なぜか「つらい」「しんどい」気持ちのほうが大きい。かわいいはずの赤ちゃんを「かわいいと思えない」と感じてしまう。さらには幼い我が子を残して、自ら命を断ってしまうママもいる。

自らも過去に産後うつを経験し、それがきっかけで一般社団法人メンタルヘルス協会認定の「上級心理カウンセラー」資格を取得したメンタルサポート研究所認定講師 今村範子さんに、妊娠・産後の「うつ」の原因について話を聞いた。

「産後うつ」は10人に1人がかかる身近なもの

「産後うつとは、出産後に2週間以上、抑うつ状態が続く病気です。うつ病の一種であり、多くは出産後2~3週間で発症しますが、3~4カ月を過ぎてから症状が現れてくる人も。重症化すると1年以上症状が続くこともあり、そのままうつ病に移行するケースもあります」(今村さん 以下同)

産後の女性の10人に1~2人がかかるといわれている「産後うつ」。おもな症状としては以下のようなものが挙げられる。

【産後うつのおもな症状】

□イライラする
□憂鬱になる
□疲れやすい
□涙が出る
□不安定な気持ちになる
□自分を責める
□食欲不振
□不眠

上記以外にも、「育児への不安が急激に込み上げてくる」「強い自己否定感を感じる」「赤ちゃんや夫への愛情を感じられなくなる」など、情緒不安定になるのが産後うつの特徴だ。

産後の女性は心身ともに不安定になりやすい

産後の女性が情緒不安定になるのは、性格傾向や外部の環境だけのせいではない。女性の体のなかでホルモンバランスが大きく乱れることも関係している。

「産後うつを引き起こす大きな原因のひとつとして、出産後の母体ではホルモンバランスが乱れることが挙げられます。妊娠中に分泌されていた女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンは産後に激減します。授乳ホルモンのプロラクチンが急増することで、ホルモンバランスが大きく変動するのです」

ホルモンバランスの乱れは自律神経に影響を及ぼし、うつ症状を引き起こす要因になりうる。「産後1カ月までは安静に」といわれるが、実はその後、産後2カ月、3カ月、4カ月の母体も、心身ともにまだまだケアが必要な状態なのだ。今村さんは産後の女性たちにこうメッセージを贈る。

「赤ちゃんが夜泣きをするのは、母親のせいではなく、その子の特質。夜泣きした赤ちゃんを前にしてもあなたの体が思うように動かないのは、怠けているのでも、あなたがダメだからでもありません。もうすでにあなたは十分頑張っている。一人で抱え込まず、信頼できる人に気持ちを話し、助けてもらえる環境をつくっていきましょう」

初めての育児に戸惑って「産後うつ」になる人もいれば、今村さんのように3人目の産後に初めて「産後うつ」になったという人もいる。出産による心身のダメージ、置かれている子育て環境、赤ちゃんの性質など、さまざまな要因が絡まりあって起きるのが「産後うつ」なのだ。

今、まさにつらい産後を過ごしているママは、まずはパートナーや家族、友人に今の気持ちを打ち明けてみよう。もしもその人たちに「理解してもらえない」と感じたら、次は産婦人科の医師や地域の保健センターに相談してほしい。何よりも大切なことは、「一人で抱えこまないこと」なのだから。
(取材・文:阿部花恵 編集:ノオト)

お話をお聞きした人

今村範子
今村範子
メンタルサポート研究所認定講師
一般社団法人メンタルヘルス協会認定 上級心理カウンセラー。3人目の子の産後に「産後うつ」を経験。カウンセリングで回復したことをきっかけに心理カウンセラーの資格を取得。
一般社団法人メンタルヘルス協会認定 上級心理カウンセラー。3人目の子の産後に「産後うつ」を経験。カウンセリングで回復したことをきっかけに心理カウンセラーの資格を取得。