その反面で「短時間で症状が収まり、その後に異常がない場合は受診をしなくてもよい」という情報を目にすることもある。本当に、受診しなくても大丈夫なのか、東京都立神経病院 神経小児科部長の福田光成先生に話を聞いた。
一般的に緊急性が低いケースがほとんどだが、特に初めてのけいれんのときは受診しよう
「熱性けいれんは乳幼児期の子どもによく見られる疾患で、そのほとんどが治療のいらない良性のものです。5分以内にけいれんの症状が治まり、発作が治まった後の子どもに異常が見られなかったら、ほとんどの場合は心配いりません。ただ、熱性けいれんにはまれに危険な疾患が潜んでいるケースがあるので、特に初めてのけいれんの場合は受診することをおすすめします」(福田先生 以下同)
具体的に、熱性けいれんを起こすと、どのような症状が起きるのだろうか?
「けいれんとは、脳がコンピュータでいうショートしたようになり、体の筋肉が勝手に動いたり呼びかけに反応できなくなったりする状態です。熱性けいれんは一般的に、38度以上の発熱がきっかけとなる発作のことで、髄膜炎や脳炎などほかの疾患を持たないケース。手足をつっぱらせたりガクガクとするけいれんのほか、白目をむいたり、嘔吐やチアノーゼを起こすこともあります。確率としては低いですが、ぼーっとして脱力した状態になり、意識障害や失神を起こしているように見えるケースもごくまれにあります」
福田先生によると、約8割の熱性けいれんの症状は、5分以内に発作が収まるそうだ。これは脳自体に消火器のようなけいれんを止める機能が備わっているため。ただし「5分以上けいれんが続く場合は止まりにくい場合もあり、救急車を呼ぶべき」とのこと。
熱性けいれんには、治療の必要がない良性の単純型と、ほかの疾患が潜んでいる場合もある複雑型がある。5分以上けいれんが続く場合や、24時間以内に一度ではなく複数回の発作を起こした場合は、良性ではないことも考えられる。
では、複雑型の熱性けいれんにはどのような疾患があると考えられるのか?
「約1割ではありますが、脳炎や髄膜炎、急性脳炎などが潜んでいることも否定できません。またこれまで症状が見られずにてんかんが潜んでいて、熱をきっかけに発作が出てしまうこともあります」
ちなみにてんかんは「発熱などのトリガーになる要因がなくても、突然に発作を起こしてしまう疾患」のこと。複雑型であることが疑わしい場合は、医師に相談しよう。CT検査や脳波の検査を勧められることもある。
熱性けいれんを起こす子どもが多い理由とは
『熱性けいれん診療ガイドライン2015』によると、熱性けいれんの多くは生後6カ月~5歳までの子どもが起こしており、日本では20人に1人の割合で見られる。また一般的に、緊急搬送で運ばれてくる子どもの1/2〜1/3がけいれんによるもので、そのうちの1/2〜1/3が熱性けいれんなのだという。なぜこれほど多い確率で熱性けいれんが起こるのだろうか?
「これは脳の発育に関係していて、脳を抑制させる神経系統と興奮させる神経系統のアンバランスにより、保育園に通うくらいの年齢のお子さんの脳はけいれんが起きやすい状態になっているとも考えられます。熱性けいれんを複数回起こしている子でも、一般的には小学生になる頃には治ることが多いです。たまに中学生でインフルエンザなどにかかり、熱性けいれんを起こすお子さんがいらっしゃいますが、これは非常に珍しいケースで、成長と共にいずれ収まるものです」
顔が紫色に変色してしまうチアノーゼや、白目をむいたひきつけ状態など、熱性けいれんに直面してパニックになってしまうのは当然だ。とはいえ珍しい疾患ではなく、熱性けいれんの多くが良性であるということを念頭に置いて、もし我が子が発作を起こしても慌てない対応を目指そう。
(取材・文:石水典子 編集:ノオト)