旅行で子に学校を休ませる、否定派の意見

旅行で子に学校を休ませる、否定派の意見

第2回 家族旅行か学校か? 賛否両論 子の学校休み論争
休みなく働くことは美徳。そう考える企業は日本に多いのか、有給休暇を取得しにくい職場環境も多いと聞く。日ごろ休みをとりづらい親からすれば、年に数度の家族旅行くらい、少しでも長く子どもと一緒に過ごしたいもの。そうした想いから、親の休みが取れたタイミングで旅行を計画し、子どもには学校を休ませる親もいる。平日に旅行を計画すれば、旅費を安価に抑えられると考える親も増えているという。

一方で、学校は絶対に休ませないという親もいる。

「古いタイプかもしれませんが、わが家は休ませません。義務教育で皆勤賞を狙う姿勢は大切だと思っているので」

そう話すのは、神奈川県で自営業を営む女性(46)。自身は留学やバックパッカー経験者で、海外での経験が将来、子どもの大きな財産になると思っている。現在、有名私立中学に通う中学3年生の長女は、保育園時代に長期の海外旅行を何度も経験したが、小学生以降の海外旅行はお盆や年末年始だけだ。

「学校はもちろん、部活も休まないという家庭のポリシーを子どもにしっかりと伝えたら、子どもも納得していました」

ピーク時しか旅行ができないので、毎年「収入のかなり高い割合が旅費に消える」という。

●学校は休めないもの

親の方針以前に、子どもが学校を休みたがらないというケースもある。「子どもが皆勤賞を狙っている」「ハワイより、クラブの試合が大切と子どもが言う」などの声もあった。

保育園児の長男(5)を持つ奈良県在住の看護師の女性(34)は、新婚旅行で出かけたタヒチのコテージで会った夫婦との会話が忘れられない。高校生の子どもたちは近所の夏祭りが優先で、一緒に来ないのだと聞いた。

「本当に子どもが親と行きたがる時期に、無理してでも仕事を調整して一緒に行っておこうと思っています」

共働き夫婦には、学校を休ませられない事情もある。都内で夫婦ともに会社員、小学3年生の長男と保育園に通う次男(4)がいる女性(34)は「学校は休めないもの」という家庭のルールを子どもに教え込んでいる。

「長期休暇も運動会などの代休も、平日なので学童に行かせている。もし一度でも、平日休んで旅行ができると思ってしまったら、『また休んで旅行しよう』となる。そのとき親は有休が取れるとは限らないので」

残業もあり、延長保育や二重保育を利用している。有休もできれば子どもの病気などのために残しておきたい。

昨年、通っている区立小学校で平日が休みになる秋休み、専業主婦のママたちはユニバーサル・スタジオ(大阪市)に行くと喜んでいた。だが、仕事のある女性ができるのは、せいぜい残業せずに学童に早めにお迎えに行く程度。長男一人で留守番をさせた日もあった。それほど「平日休み」は避けたいもの。やすやすと、「休める」感覚を子どもにも持たせられないのだ。

●学級がまとまらない

かつては絶対休めないものだった学校の休みハードルが低くなってきた背景には、中学受験の体調管理のために受験前から休むことが都心などでは一般化したことがある。また、授乳室やおむつ交換台など赤ちゃん連れで出かけるための社会環境が整い、幼少期に子連れ旅行慣れした親たちが、その感覚のまま小学生の親になっていることも関係していそうだ。

情報サイト、オールアバウトで「旅育メソッド」を展開する旅行ジャーナリストの村田和子さんは、気兼ねなく家族旅行を楽しむために、学校での「旅行休暇」を提案する。

「週末は親が仕事という家庭も少なくありません。平日に学校を数日でも休めれば、家庭の事情に合わせ堂々と旅に出かけられるし、費用面の負担も下がる」

ただ、平日休めば授業が遅れることは確か。教育現場では学業を優先すべきという意見もある。

村田さんはこう話す。
「旅で未知の世界に触れ、感じ取る体験は、レジャーというより社会で求められる生きる力を学ぶ好機。机上では得られない、子どもの興味・関心が芽生えることも多い。旅行のレポートを学校へ提出するなど工夫することで、学力面でもプラスになる」

教育関係者の男性(59)は「家族旅行は大切」と認めながらも、学校を休んでという考えは容認できないと話す。

「個々の事情で欠席できるという流れが学校に浸透すれば、学級がまとまらず教育に芯がなくなる。地味でも真面目な生活を肯定することが、子どもの教育にもいいと思います」

「休み」に対する親の価値観が、子どもの「学び」を左右するのは間違いないようだ。
(記事提供:『AERA』 文/三宮千賀子)