「私が提唱してきた “台所育児”は、子どもの“やりたい!”というその気持ちを尊重し、一緒に料理をすることを通して、五感をフルに使う体験をしながら食の大切さや生きる力を学ぶ育児法です。実は台所はさまざまなことが学べる“社会の縮図”なんです。そして、生きること=食べること。まさに“食”を学ぶことは、生きる力となるのです」
そう話すのは、『台所育児 一歳から包丁を 』の著者で、料理研究家の坂本廣子さん。この“台所育児”は、いわゆる“お手伝い”とはまったく違うという。
「“台所育児”の最終目的は、幼児が最初から最後まで大人の手を借りずたった一人で料理を作ることです。もちろん、難しいものを作るのではありません。本当に簡単なものでいいんです。つまり重要なのは、一人で責任をもって料理を完成させることで自信と自尊感情を育み、生きていく力を身に付けるのです。私が携わっている子どもの体感料理教室『キッズキッチン』でも、料理を通して、多くの子どもたちが劇的に変わっていく姿を目の当たりにしています」(坂本さん 以下同)
●“台所育児”は子どもがやりたがったときが、はじめ時!
幼い子どもに料理をさせるといっても、いつごろからさせたらいいのでしょうか?
「料理をやりたがる時期は、一人ひとり違います。つまり、“やりなさい”と強制するのではなく、お子さんが台所に入りたがる、やりたがるときがはじめ時。1歳からでも4歳からでもいいんです。せっかくやりたがっているのに、“まだ幼いから”“危ないから”と、大人がきめて入り口で拒否してしまうことは、子どもが“できた!”という喜びと自信をつける機会を閉ざすことです。さらに、“この子は、こんなこともできるのね!”という発見の機会を逃してしまうことなのではないでしょうか?」
驚くべきは、“台所育児”では、火も包丁も大人が一緒であれば1歳児でも使わせてOKということ。(※条件は、止まって! と言ったときにお子さんが止まれること)
「言葉もまだちゃんと話せない子どもに刃物や火なんてとんでもない!と思われると思いますが、本当に不思議なくらい子どもの手は器用です。しかも、自分流のクセなど何もついていない真っ白な状態なので、教えられた通りに集中してやれるのです。少し痛い思いや熱い思いをしたとしても、その経験からよりその後は慎重になり、大けがを防げるというものです。幼児期の体験は、五感で体験したものしか脳に残らないそうです。つまり、大事なことは、“やりたい”といったそのときに“本物”を与え、体験させることが何より大切です」
実は、何歳からでもOKとはいうものの、早ければ早いほど苦労なく上達するそう。
「25年前、自分自身の経験から料理を始めるのは早いほど苦労なく上達できると思い“台所育児”の本を書かせていただきましたが、近年になって脳科学的にも子どもが経験したことを身につけるのに“6歳までがとても重要”で土台作りの時期になると証明され、“やっぱりそうだったんだ”とあらためて実感しています。最初のうちはお母さんの見守る忍耐”が必要ですが、小さいうちにたくさん褒めて自信をつけてあげてください。それがお子さんの生きる力に必ずつながります」
子どもがいると、なかなか料理ができないわ! とイライラしているママは、ぜひお子さんを台所に招き入れて、“台所育児”を実践してみては?
(構成・文/横田裕美子)