「昔から、“子どものうちなら直る”と、まことしやかに言われてきましたが、実は、子どもは短所や苦手を直すことが苦手なんです」
そう話すのは、教育評論家の親野智可等先生。では、なぜ“子どものうちなら直る”と言われてきたのでしょうか。
●子は吸収の天才だが、短所は生まれ持った資質
「子どもというのは、驚異的な吸収力というものがあります。例えば、外国に住めば、あっという間にその国の言葉を覚えてしまいます。九九などもすぐ覚えてしまいますし、自転車などもすぐに乗れるようになってしまいます。つまり、乾いたスポンジのように、新しいものがどんどん入るのです。親たちはそんなわが子をみて、きっと子どものうちなら短所や苦手も直るだろうと思いこんでしまったんですね。でも、マイペース、だらしない、引っ込み思案、運動が苦手…などの性格や才能は、その子の持って生まれた資質であり、それをかえるのは新しいものを吸収するということとはまったく違うことなのです」(親野先生 以下同じ)
●子どもには短所をなおす強いモチベーションがない
つまり、性格の短所や苦手を直すことは、吸収とはまったく違う、もともと持ったものを造りかえる“自己改造”であり、簡単な話ではないという。
「実は、自己改造をやり遂げるためには、強烈なモチベーション、意志力など、人間としての総合的な能力が必要なのです。でも、残念ながら子どもにはそのモチベーションがありません。子どもは“今を生きる存在”であり、将来を見据えてものを考えることが本質的に苦手なのです」
自己改造をするなら、子どものうちよりかえって大人の方が可能性はあるそう。
「大人ならば、夢を真剣に考えたりするときに、何をすべきか? どうしたらいいか? と、自己改造への強いモチベーションを持てるようになることがあり、また、そのために情報収集などの行動を起こすこともできるんですね」
例えば、お子さんの習い事でよくある“苦手だから●●を習わせる”というのも、リスクが高いと親野先生は話します。
「苦手なものを克服させることに意味がないとはもちろん思いません。しかし、苦手を克服するのには何倍もの努力と時間と忍耐が必要になります。貴重な子ども時代に、それほど困難で実りの少ないことをさせるよりも、もともと得意なもの、向いているものを楽しんでやらせたほうがお子さんもイキイキしますし、ぐんぐん伸びると思います」
まずは、子どもの本質を受け入れたうえで、導くことが大事。
「『子どものうちなら直る』と信じて子どもに接していれば、どうしても思い通りにならないために『なんでできないの!』と、否定的に叱ることが増えてしまいますね。その結果、子どもたちは自己否定感と他者不信感でいっぱいになってしまいます。どうか、子どもの本質を理解し受け入れたうえで、短所や苦手ばかりに目を向けるのではなく、お子さんの長所や得意なものに目を向けてどんどん伸ばしていってあげてください」
これまでお子さんの短所や苦手に注いできた分のエネルギーを、長所や得意なことに注ぐことで、お子さんの知られざる可能性に出会えるかもしれませんね!
(構成・文/横田裕美子)