「子どもがズルをする心理というのは、小さい子が、“快か不快か”とか“損が得か”“大人から叱られるか褒められるか”というところを重視しているからなんです」
そう話すのは、東京学芸大学教育学部准教授・松尾直博先生。
つまり、勝って嬉しい、ルールを守らないほうが得…といった単純な動機だという。
「それがだんだん経験や教育などによって、あるいは知的発達によって小学校中学年くらいから“道徳性”が内在化していくと、“なんかそれは違うんじゃないか?”“損得と正しいことは違う気がする”“先生や親が見ているから、褒めるからやるとかは違うんじゃないか?”などという考えが自然に高まってくるのです。もちろん、これも個人差があって幼いころから正義感が強い子や、経験や家庭教育で早く獲得している子もいます」
また、親の言動がズルを助長させてしまうケースもあるという。
「親が普段から子どものすることの結果ばかりにこだわってしまうと、正しいことというよりも、勝つことに執着してしまう。つまり、ズルをしてでも勝たないと親に褒めてもらえない、認めてもらえない…となるわけです」
●経験のなかから、子ども自身が生き方を選ぶ
では、わが子がズルする子に疑問をもったとき、また、わが子がズルしたときに親としてどう導いていったらいいのでしょうか?
「極論を言えば、この問題については、どういう生き方を選択するかということです。教育用語で“よりよく生きる”という言葉があるのですが、“よく”という言葉には“正しく”と“巧みに”という意味があって、親からするとわが子には将来“巧みに正しく生きてほしい”と思いますよね。それは、人生は正しいだけでもうまくいかないという現実があるからです」
いずれ子どもたちも、その現実に直面して葛藤するときがくる。
「つまり、“正しく生きること”と“巧みに生きること”が一致しなかったとき、どちらをとるのか? ということ。生きていくためにはそのバランスがとても重要なので、何か事が起こったときに一緒に親子で考え、小さいころからたくさんの経験をしておくことが大事です」
さらに、その子に応じた導き方が大切だという松尾先生。
「子どもの性格や発達段階に合わせつつ、例えば快楽や損得で動く子には正しさを教えてやらなければならないし、逆に真面目すぎて人の苦労まで背負っちゃって苦しんでいるような子は、正しいだけにこだわらずにやれる範囲のなかで得するほうを選択するアドバイスをしてもいいかもしれません。友だちのズルから学ぶこともたくさんあるでしょう。そういうなかから、先にはなりますが自分なりの生き方を子ども自身が選びとっていけばいいと思います」
子ども同士の悩みやトラブルは、すべて子どもが将来生きる力を身に付けるための貴重な経験。親子で考え、悩み、乗り越えたことは、子どもにとってかけがえのない財産となるのです。
(構成・文/横田裕美子)