●一度話したら忘れる…神話はホント?
夫の帰宅は毎晩遅く、4歳のやんちゃな長男の行動やわがままに振り回され、身も心も憔悴状態に陥っていた新米ママ・Tさん。
「息子は優しくていい子なんですが、私が甘やかしたせいで、物をねだるときの駄々こねがひどいんです。スーパーやおもちゃ売り場で泣かれることもしばしば。息子を抱きかかえながら叱り飛ばしてしまうこともよくあって、そんな自分を責めたり、後悔したり…。最近は、育児に自信が持てずにいました」(Tさん。以下同)
この日も、スーパーで玩具菓子をねだられたTさんだったが、長男の大泣きに負けず、頑として意志を貫き、何とか自宅へと帰ってきた。長男は泣き疲れて、車のなかで寝てしまったという。
「怒られても、すぐに忘れてケロっとしているんですよね。それがいいのか悪いのか…。まぁ気持ちをすぐに切り替えられるのはいいことなのかもしれませんが…」
長男が起きないように、そっと部屋へと運んだTさん。疲れたTさんも一緒に添い寝していると、長男は安心したのか、機嫌よく目覚めた。
「息子が寝ながら、じーっと私の顔をながめているので、『どうしたの?』と聞いたら、『僕ね、今、ママのお腹のなかにいたときのこと思い出してたんだ』と言うんです。面白いな~と思って、『ママのお腹のなかって、どんな感じだった?』と聞いたら、息子が『ママのお腹のなかね、赤くて温かったんだ~。でもお腹に入る前に、僕はお空を飛んでいてね…』としゃべり始めたんです」
興味津々で、長男の話の続きを聞いたTさん。
「『僕、たくさんの赤ちゃんと空を飛んでいたんだけど、下を見たら、沢山のママの写真があって…そのなかに、笑顔のママがいたから、“優しそうなママだな~”と思ったんだ。だから僕は、ママを選んでお腹のなかに入ったんだよ』と言ったんです。息子の話を聞いているうちに、自然と涙がこぼれてきました。それまでの育児の悩みなんか、全部吹き飛んだような気がしましたね。私はたぶん、この日のことを一生忘れないだろうと…」
そんな長男も、今では小学6年生になり、多感な時期を迎えている。
「よくお腹のなかにいたときのことって、一度親に話すと、子どもは全部忘れてしまうと言いますよね。だから私も、ためしに聞いてみたんです。『こんなこと言ったの、覚えてる?』と。案の定長男に、『知らねぇ~』と言われましたよ(笑)。神話は本当なのかもしれませんね」
育児は大変なことの連続。だが、ほんの一瞬訪れる些細な幸せに、母親は救われる…そしてそんな感動があるからこそ、母たちはみな、日々の育児のつらさを乗り越えていけるのかもしれない。
(取材・文/蓮池由美子)