●まさか…息子が自転車事故に!?
1人息子である12歳の長男を持つ母・Kさん。Kさんは、大手保険会社で働くワーキングマザーであり、夫も広告代理店勤務。長男も中学受験を目指し、毎日遅くまで塾通いとあり、Kさん夫妻は結婚記念日はおろか、自分たち夫婦の誕生日ですら忘れてしまうほど、仕事の忙しさに追われていた。
「息子の誕生日パーティーやクリスマスなどはきちんとやりますが、元々ドライな夫婦なので、お互いの誕生日パーティーはおざなりになっていたんですよね。いい歳して…という感覚もあって。ただその日は、偶然有給を取っていたこともあり、塾に行く息子を自宅から送り出すことができたんです。そのとき何となく、“あらそういえば、お母さん今日誕生日だったわ!”とつぶやいたんですね」(Kさん 以下同)
長男はいつもと変わらず進学塾へ…。夜ご飯も、塾の友だちとみんなで買って食べる機会が増え、毎日500円くらいは持たせていた。
「塾は9時には終わりますが、先生が熱血な方なので、もう9月に入っていましたし、9時半になっても帰ってこないことは度々ありました。でもその日は、10時近くになっても帰らない。さすがに心配になって、途中まで迎えに出たんです」
家の前の大通りに出てみると、遥か遠くの方にヘルメットをかぶった長男が、自転車を引きずりながら帰ってくる様子が見えたという。
「焦りましたね。事故か何かに遭って、どこかケガでもしたのかと思ったんです。うつむきながら、ゆるやかな坂道を、自転車を必死に押してこちらにやってくるんですよ。私は、息子の元まで全力で走りました!」
やっとたどり着くと、長男がニコニコ笑っているという。
「『どうしたの? ケガでもしたの?』と聞くと、『あ~あ~、見つかっちゃったか~』とニコニコしてるんです。自転車のハンドルに小さなビニール袋がぶら下がっていて…。それを見た瞬間、すべてを察した私は、もう涙が止まりませんでした。息子は、『お母さん、今日誕生日でしょ? ケーキが崩れちゃうから、俺、自転車わざわざ押して帰ってきたんだよ』と笑顔で言うんです」
「ありがとう! ありがとうね~」そう何度も繰り返しながら、息子の自転車を代わりに押し、一緒に帰宅したというKさん。
●世界にたった1つのモンブラン!
箱を開けて、なおビックリだったという。
「私が大好きなモンブランが1つだけ入っていたんですよ。私が一番好きなケーキがモンブランだって、息子はちゃんと知っていたんですね。母親のことをよく見てるんだな…って。親バカですけど、また胸が熱くなりました(笑)」
この一件があってから、Kさんはしっかりと、自分と夫の誕生日パーティーを開くようになったという。
「まぁ中学生になった今では、誕生日プレゼントなんてくれなくなりましたけどね(笑)。あのモンブランは、私のスマホのなかに、今でも大事にしまってあります…」
(取材・文/蓮池由美子)