これって、いったいなぜ? その理由やメカニズムなどについて、日本医科大学名誉教授で、東京医療学院大学長の佐久間康夫先生に聞いた。
「ネットなどでは確かに『お母さんになって物忘れが増えた』という声が多数ありますが、医学的にはヒトでのエビデンスはないようです。逆に、妊娠・出産・子育てをすると、むしろ哺乳類のメスは脳の働きが変わり、認知機能などが活性化するという結果が得られています」(佐久間先生 以下同)
ラットを用いた最近の研究では、メスが母親になると、脳で劇的なホルモンの変化が起きることがわかってきたそう。記憶や学習、恐怖とストレスへの反応を制御する領域が影響を受け、警戒心や子育て意欲が高まるほか、空間記憶・学習能力などが向上するという。
「しかも、1回でも妊娠した母親ラットは、子どものいないラットに比べ、迷路を抜けて餌をとるのがうまいこともわかっています。つまり、妊娠の一時期間でなく、母親になると、脳が変化すると考えられているのです」
●ママの物忘れは、脳の退化ではない!
では、なぜママになると物忘れすると感じる人が多いのだろうか。佐久間先生は「ホルモンの影響によるものではないか」と話す。
「分娩前は、胎盤由来のエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が血中に高く、精神的高揚状態にあります。しかし、分娩で胎盤が失われると、これらのホルモンの濃度が急激に減少します。一方、母子のきずなをつくるオキシトシンやミルクの分泌に必要なコルチゾール(緊張が和らぐ作用がある)の濃度が高まります。これらのホルモンから幸せな気持ちが高まると、不安を感じにくくなり、緊張感が失われるため、『忘れっぽくなる』と感じるのかもしれません」
「オキシトシン」は「愛情ホルモン」ともいわれ、恋人同士や親子、さらに人間とペットの間でも、スキンシップなどの触れあいで分泌され、「信頼する気持ちを高める」と考えられている。
「さらに、育児に注意を集中して、そのほかのことは忘れてしまうこともあると思いますし、疲労により記憶に悪影響が出ること、赤ちゃんのリズムと大人のリズムが違うことにより、睡眠不足になり、物忘れが起こることも考えられます」
ママになってからの物忘れは、決して脳の退化などではなく、生活リズムの変化や睡眠不足・育児疲れによるものが多そう。物忘れが続いたときは、ゆっくり休んでみるのもアリかも。
(田幸和歌子+ノオト)