●かつてよりも変わった深夜徘徊する子の理由
「悲しい2つの事件が発生し、子どもたちの夜遊びが危険視されていますが、正直に実情をお話しすると、僕の夜回りは、今ほとんどが空振りに終わっています。今、日本の繁華街に子どもたちはほとんどいません。夜の街に子どもたちがあふれたのは、94~04年くらいまで。1回の夜回りでどれだけ補導できるか…というくらい、かつての夜の街は子どもたちであふれていました。でも今、子どもたちは夜の街に出る必要がなくなったんです。その証拠に、ゲームセンターやカラオケボックスがどんどんつぶれている。その場に行かなくてもスマホでゲームができるし、直接会わなくてもLINEでつながることができる。でも、それで安心かと言えばそうではなく、それでも深夜徘徊をするという子どもたちの状況は、昔よりも極めて深刻なんです。深夜徘徊をする子は、何らかの事情で家に居られない子。例えばお母さんの恋人が来ている、お母さんが夜の仕事をしている…など、見過ごすわけにはない 状況に置かれている子どもばかりです」(水谷氏 以下同)
「夜遊びする子の家庭では、必ずと言っていいほど、親自身も夜出歩いている」と水谷氏はさらに続ける。
「現在、46都道府県(長野県以外)で青少年健全育成条例が定められているので、夜11~朝の4時まで、18歳未満の子どもが成人の付き添いなしでいれば必ず補導されます。つまり、夜11時以降に子どもを外に出している親は、 保護監督違反にあたる。まずはこの基本を、親、そして大人たちに知って欲しいです。親には子を保護する義務があり、子どもたちは決して夜の街を歩いてはいけない! 寝屋川の事件でも、その条例に誰かが気づいて警察に110番していたら、誰かが保護してくれさえすれば、あの2人は死ななくてすんだんです。そこを親だけでなく、世の大人たちにきちっと認識してほしい。もっと言えば、夜10時~朝の6時まで、18歳未満の子どもだけを置いて家を出ることもネグレクトにあたります」
温かい家族や家庭もなければ、お金もない…そんな哀しみを背負った子どもたちが、光を求めて夜の街をさまよう。
「例え親がネグレクトでも、お金がある子たちは、ネットカフェやカラオケボックスにいることができる。今、深夜徘徊しているのは、それすらもできない、ジュース1本買うことができない子どもたちです。夜回りで声をかけ、“どうやって帰るんだ?”と聞くと“歩いて帰る…”と答える。まずは彼らの家庭を変えることから始めなければなりません」
子どもの夜遊びは、幼いころから身に付いてしまった夜更かしとも密接な関係があるそう。
「親が率先して、小、中学校の段階から夜更かしをさせているケースも多いですね。規則正しい生活がまるでできていない。親が酒を飲みながらテレビを観て、大人の都合で子どもを夜遅くまで起こしておく。夜更かしするから、朝は眠くて学校に行きたくなくなるし、子どもはどんどん悪循環へと落ちていきます。夜の街にいる子は自分が親に愛されていると思ってない。親から粗末にされ、家庭からも学校からも追いつめられ、大人たちのイライラが自分に集中する。彼らの自己肯定感は必然的に低くなり、勉強することの意義すら見いだせなくなる。親の愛をきちんと感じている子は、親を大事にしてくれるはずです。週末は自然のなかで子どもと走り回ったり、家族で山登りをしたり、海岸に景色を見に行ったり…幼い頃から、そういう家族の時間をちゃんと作ってあげれば、子どもが夜の街に出ることはありえません」
だが最後に、水谷氏からはこんな想定外のメッセージが返ってきた。
「もちろん痛ましい事件や事故に遭遇する可能性は大きくなりますが、夜遊びする子はまだまし。なぜなら外に出ていく子は“生きる力”があるから…。今、僕が苦しんでいるのは、夜遊びする子どもではなく、1人孤独に暗い部屋で死へと進み、リストカットする子どもたちです。夜遊び、リストカット、いじめ…子どもたちの問題は、時代と共にさらに闇が深くなりますが、困った時はいつでも連絡をください。僕はいつでも待っています」
(取材・文/蓮池由美子)