ところが、おさめるどころか親が比較したり、差別したりすることで、余計にきょうだい間の関係を悪化させ、将来にまで影響を及ぼすほど根深いものにしてしまうケースがあるという。
東京学芸大学准教授の松尾直博先生は、こう話します。
「家族関係のなかで、きょうだいが愛情や注目、承認、称賛を奪い合ってしまうということが原点になるんです。つまり、きょうだい間で勉強、容姿、スポーツの能力などの差があった場合、親がそちらだけに注目や称賛してしまい愛情のかけ方が大きくバランスを失うと、親に愛されていないと感じる側のきょうだいが、親ではなくそれを得ているきょうだいに強い憎しみ、嫉妬を持ってしまうんです(もちろん、親に憎しみを持つ場合もあります)。成長とともに、親が認めてくれなくても、先生や指導者、先輩などが称賛し認めてくれることでバランスを保っていけるケースもあるのですが、小さい頃は家族関係が中心になるため、より葛藤を生みやすいのです」
旧約聖書に出てくるアダムとイブの息子、カインとアベル。兄のカインが弟のアベルに嫉妬し、激しく憎み、ついに殺してしまう…という神話がもとになっているという。きょうだいだからこそ、何かと比較されやすい。しかも、関係が一生切れないということも、事をこじれやすくさせる。
●きょうだいへの憎悪が、その後の人間関係にも影響する
さらに、カインコンプレックスはきょうだいに向けられた感情だけで終わらないケースがあるというから深刻です。
「カインコンプレックスというのはもともときょうだいに感じることに留まらず、きょうだい関係を思わせる人、例えば友達や先輩・後輩、同僚などと出会ったり付き合うなかで、潜在していたきょうだいに向けての憎しみや嫉妬が沸いてきやすくなるという考え方もあるんです。“あの人のほうが上司や仲間より愛されている”“私がまた我慢しなきゃならない”など、誰もそんなふうに思ってないし、そんな役割を押し付けてないのに、思い込んで憎しみの感情を抱いてしまうのです」(松尾先生 以下同)
きょうだいが何人いようとも、子どもは本来、自分だけを見ていてほしいし、親の愛情を独り占めしたいもの。そのことを親はよく理解して一人ひとりの子に接しなければならないという。
「小さいころに、“自分は愛された”という実感を持てなかった子は、後に“三者間”の人間関係を築くのが難しくなるケースもあります。一対一ならうまくいくのに、三者になると、どうしてもうまくいかない。どちらか一人を独占しないと安心できないからなんですね。このように、幼少期からの親御さんのきょうだいへの言動がお子さんの人生にさまざまな影響を及ぼす可能性もあるので、どうか親御さんは常にきょうだいそれぞれが“愛されてる”と実感できるように、バランスよく愛を注いであげてください。そうすれば互いに認めあい、称賛しあえる関係が築けるでしょう」
優れたスポーツ選手や芸能人などのきょうだいが、修復不可能なカインコンプレックスを告白するケースもあります。親御さんの愛情のかけ方で兄弟姉妹の仲を割いてしまわないよう、常に子どもの立場、気持ちになってそれぞれに愛を注いであげたいものですね。
(構成・文/横田裕美子)