子育て中のママなら、こういった言説を一度や二度ならずとも耳にしたことがあるだろう。これらはすべて、1990年代から現在まで日本の育児法の主流として定着した「ほめ育て」の考え方に基づくもの。
ところが、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)によると、必ずしも「ほめて育てる」は正解ではないのだという。教育心理学の現場で長いキャリアを持つ著者の榎本博明先生に話を聞いた。
「ほめ育てが導入された結果、傷つきやすく、厳しい状況になるとすぐにへこたれる若者が増えてきています。叱られると落ち込んで会社を休む若手社員や、注意すると逆ギレして『パワハラだ!』と騒ぐ若手社員に、いまや多くの管理職や経営者が手を焼いています」(榎本先生 以下同)
●ほめ育てが自己肯定感の育成を阻害している可能性も
その実態は、調査データからもうかがえる。「高校生の生活意識と留学に関する調査――日本・アメリカ・中国・韓国の比較」(日本青少年研究所)によると、自己肯定感に関連する項目について次のような変化が起きている。
「自分はダメな人間だ」という項目に、「よくあてはまる」と答えた高校生の比率が、1980年の12.9%から2011年には36.0%とほぼ3倍にまで増加しているのだ。
「このことは、1990年代に導入された『ほめて育てる』という思想が必ずしも自己肯定感にはつながらないこと、むしろ自己肯定感の育成を阻害する可能性があることを示唆しているといえます」
もちろん「ほめる」こと自体は悪いことではない。大人だってほめられればうれしいし、やる気になるだろう。ただ、ほめられることしか知らず、叱られることに「免疫」がない子は、打たれ弱い大人になっているという事実が近年実証されつつあるのだ。
●どうすれば本物の自己肯定感は高まる?
ほめ言葉だけで作られた自己肯定感は、脆い。ではわが子に土台のしっかりとした自己肯定感はどうやって身に付くのだろう?
「自己肯定感は、子ども自身ががんばって課題をこなしたり、困難を乗り越えたりすることの積み重ねによって徐々に形成されていくもの。ゆえに、がんばってもいないのにやたらとほめられても自信になりません」
努力なしにただ親からほめられても、「どうせ自分は期待されてないんだ」「この程度の力しかないんだ」という思いから、子どもはかえって自信を失ってしまう。小手先のほめ言葉よりも重要なもの、それはやはり「愛情」だと榎本先生は指摘する。
「もっとも基本的なことは、親がわが子に本当に愛情を注いでいること。それが土台にないと、いくら成果を出しても子の自己肯定感は育ちません。大事な人から、心から大事に思われているということ、これが人としての土台となるのです」
いつも笑顔のやさしいママでいたい。それはわが子のためというよりも、自分のため、自己愛に過ぎない。本当に子どものためと思うのならば、ときには毅然として叱るのも親の役目だと心得よう。ときにはやり方が間違っていても、根幹に深い愛情があればきっといつか思いは伝わるはずだ。
(阿部花恵+ノオト)