「友だち親子」は子の社会不適応を生む?

第3回 「ほめて育てる」に潜むリスク
「子どもとは友だちのように何でも言い合える関係が理想」というママは多いのでは? だが親と子が「友だち」のような関係性になってしまうことは、はたして本当にいいことなのだろうか?

日本では理想とされている「友だち親子」だが、実際にそうなるとさまざまな歪みが生じるという意見もある。教育心理学の現場で長いキャリアを持ち、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)の著者である榎本博明先生に話を聞いた。

「友だち親子」は子の社会不適応を生む?

●「友だち親子」は親のエゴ!?

「友だちのように一緒にたわむれているのは、実はわが子のためを思っているのではなく、親自身がそのほうが寂しくないから。つまり、非常に“自己チュー”な親のあり方です」(榎本先生 以下同)

なんと、「友だち親子」は親のエゴだった!? 親子の仲がいいのはもちろん素晴らしいこと。だが、問題は「親と子が同次元でたわむれる」ことにあるという。

「友だち同士なら同世代ですから、ずっと一緒にたわむれていてもいいんです。けれども親がいなくなったあとも、子は一世代をたくましく生き延びなければならない。そのために親は一緒にたわむれるのでなく、あたたかい愛情で包みながらも厳しく鍛えてあげる側面が必要なのです」

「子どもの体験活動等に関する国際比較調査」(子どもの体験活動研究会)によると、韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・日本の5カ国の小5、および中2を対象に比較したところ、「子どもをしつけよう」という親側の働きかけが圧倒的に低いのが日本だった。

「日本以外の国では、今でも親は絶対に逆らえない権威である場合が多い。だからこそきちんとしつけができるし、子どもも安心して親を頼りにできます。何かあったときに子どもと一緒に揺れ動くような親では、軽すぎて、いざというときに頼りになりませんから」

「友だち親子」は子の社会不適応を生む?

●欧米のママは日本よりずっと厳しい

実はあまり知られていないが、子どものしつけに関しては日本よりも圧倒的に欧米のほうが厳しいといわれている

「アメリカの母親はある意味、怖い権力者です。逆らうことを許さない。フランスの母親はさらに厳しい。赤ちゃんのうちから親の都合を優先させ、親に合わせることを徹底的に教え込みます」

そういった厳しさが背景にあるがゆえに、「ほめて育てる」ことで親子が心をつないできたのが欧米社会のあり方だった。ところが、その「ほめ育て」の部分だけが、もともと母子の心理的一体感が強い日本社会で流行したため、子を叱らない「友だち親子」が誕生してしまったのだとか。

「『ウチの親は甘いからダメ。嫌われたくないんですよ』と嘲笑気味に言う若者がいました。自分が嫌われたくないから叱れない親と、一時的に憎まれ役を買ってでもちゃんとしつけようとする親、どちらが自分のためを思ってくれているか、子どもは直感的にわかるものです」

叱り方を間違えると取り返しのつかない心の傷を与え、自信のない人間になってしまう。そんな風に考えて叱ることを躊躇している親もいるだろう。だが、「傷つけないようにと気を遣うほど、子は社会に適応できない人間になっていく」のだという。

「子どもは挫折を経験し、悩むことで成長していく。子が挫折しないようにするのではなく、挫折を乗り越えようともがき苦しむのに寄り添う姿勢が親には必要です。過保護にならず、かといって無関心にならず、しっかりと見つめつつ、励ましの声をかけ、必要とされたら一緒に考えてあげてください」

親の一番の役目は、子どもと「友だち」になることではない。わが子に人生を生き抜く力を身に付けさせることだ。そのためにも、叱るときは叱り、いざというときは子が頼りにできる存在になる。それこそが親が目指すところだ。
(阿部花恵+ノオト)

お話をお聞きした人

榎本博明
榎本博明
MP人間科学研究所代表
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝勤務後、東京都立大学大学院へ。大阪大学大学院助教授、大阪府家庭教育カウンセラーなどを経てMP人間科学研究所代表。
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝勤務後、東京都立大学大学院へ。大阪大学大学院助教授、大阪府家庭教育カウンセラーなどを経てMP人間科学研究所代表。