先進的な海外の避難所に学ぶ!地域に生かす避難所運営(前編)「食事」

先進的な海外の避難所に学ぶ!地域に生かす避難所運営(前編)「食事」

「体育館や公民館などに、たくさんの人がつめかけ、床に毛布などを敷き、間仕切りもない狭いスペースで周りの人に気を使いながら雑魚寝。トイレには大行列ができて、衛生環境も良くない。支給される食事といえば、おにぎりかパン。良くても、炊き出しの豚汁。」
避難所に対して、そんなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。「非常時に、屋根があるところで安全に過ごせるだけで、ありがたいこと」だと、災害時には割り切って考えることができるかも知れません。しかし、こうしたイメージから、避難所に行くことをためらい、「多少危険だとしても、自宅にとどまった方がマシ」と考える人もいるはずです。

「これが、あたりまえ」と私たちが諦めていることが実はあたりまえなことではなく、理想的な避難所運営を行なっているところがあるとしたら。そして、お住いの地区の人たちで協力することで、理想的な避難所に近づけることができるとしたら。

まずは、知ることから始めましょう。
特に食事に関して充実しているイタリアの避難所運営には、お手本となることが多くあるかもしれません。

職能ボランティアが支えるイタリアのヒューマニズム避難所運営

火山も多いことからたびたび地震も発生し、ヨーロッパの中でも自然災害多発国であるイタリア。1908年のメッシーナ地震(M7.1、推定死者8万2000人〜12万人)、1915年のアベッツァーノ地震(M6.7、推定死者3万2610人)、1980年のイルピニア地震(M6.9、死者4,900人)、2009人のラクイラ地震(M6.3、死者309人)、2016年のイタリア中部地震(M6.2、死者298人)など、数々の大地震に見舞われてきました。
イタリアでは、国の官庁である「市民保護局」が避難所の設営や生活支援を主導し、避難者の生活を重視した支援が行われています。災害発生後48時間以内に、避難所にベッド、仮設トイレ、食堂を準備し、提供することが法律で定められています。各州、災害ボランティア団体が公的備蓄倉庫を持っており、トイレコンテナ(仮設トイレ)やベッド、テント、キッチンカーなどを備蓄していて、早ければ発災当日にテントやトイレなどを設置することができるのです。

避難所そのものも、日本とは大きな違いがあります。
日本では、体育館などの屋内に多くの人が入りますが、イタリアでは避難所に多くのテントが設置され、家族ごと(または8人〜12人の比較的少人数)でテントに入り、簡易ベッドを使って寝起きするのが一般的です。約10畳ほどの広さのテントが建てられ、テント内にエアコンや個別のトイレが設置されることもあります。2009年に発生したイタリア中部のラクイラ地震では、約2万8000人がテントに避難しましたが、それを上回る3万4000人が、国の資金でホテルに宿泊したと言われています。

トイレも、日本の仮設トイレとは様子が異なります。コンテナに数個のトイレと洗面台が組み込まれているのです。屋根のついているコンテナの中にトイレと洗面台が入っていることで、「雨の降る中で、屋外でトイレを待つ行列に並ぶこと」を幾分か少なくできます。
食中毒などを防止するために、食事の提供を担当するボランティアは、避難者とは別のトイレを使用するといった配慮もみられます。

避難所の食事にも、大きな違いがあります。イタリアでは、プロのシェフや調理師免許の取得者などが平時から十分に訓練を行っている、調理を専門とするボランティア団体があります。災害がおきるとキッチンカーと食堂が避難所に配置されるのですが、食堂となる100人規模のテントの中には机と椅子が並べられ、美味しく温かい食事が提供されます。キッチンカーは、大きなもので1時間に1000食を提供できるようなものもあります。
食事の内容も、単に栄養を摂取するだけでなく、心のケアも考えられており、できたてのパスタと、サラダやソーセージ、そしてデザートやワインまで、日常に近いものになっています。
また、アレルギー食は別の鍋で調理するなどの配慮はもちろん、イスラム教信者のハラル食やベジタリアン食などにも対応して、食事の提供が行われます。

こうしたことが可能なのは、日本とは異なる2つの体制が整っているからだと考えられます。

まず1つ目は、「被災した地域の自治体が頑張るのではなく、近隣の県や市町村が速やかに支援する」体制が整えられていることです。
発災時に、避難所の設置場所などは被災した市町村が決定しますが、市町村の力には限りがあるので、被災していない近隣の県や市町村が支援を行うのです。食費を含めた、災害支援にかかる費用は、公費から支払われることになっていますが、災害が発生した時にはそれぞれの災害に対する個別法を制定し、その法律に基づいて必要とした費用を請求することになっています。

そして、もう一つは、様々な業種の人たちが自ら志願し、それぞれの職業を活かして被災者支援を行う「職能ボランティア」が被災地に派遣されているということです。
平時も調理師や運転手として活動しているプロフェッショナルが、被災地での調理やトレーラーの運転に志願します。あらかじめ災害時の対応訓練を受けて国に登録した人が被災地に派遣され、業務に当たります。国に登録されている職能ボランティアは、災害が発生すると最大で7日間の給与、交通費、保険料が支給・保障されます。雇用者は、職能ボランティア登録者を被災地に派遣させるように法律でも義務付けられています。

被災した地域の人たちの心のケアまでも重視するとともに、ボランティアひとりひとりをプロフェッショナルとして能力を発揮できる体制を整える。
人間中心の災害対応が、イタリアの避難所での食の支援に特徴的に現れていると言えるのではないでしょうか。また、被災した地域の人たちが頑張るのではなく、近隣の地域の人たちが即座に支援に向かえるような体制が整えられているということも、イタリアの避難所運営の特徴です。

変わりつつある日本の避難所の食

日本では、避難所の運営は、避難者が自ら運営するものとされています。災害によって被災した場合、住宅の再建など、その後の生活再建は自力で始めることが基本で、避難所での生活は、その生活再建の第一歩となる場所だと考えられているためです。
社会福祉協議会などがボランティアの取りまとめを行い、必要だと思われるところにボランティアの派遣を行なっていますが、避難所の運営に関してはボランティアはあくまでも補助的なものです。
被災した人の健康を守るためにも、避難者が自ら避難所を運営することが理にかなっていることではあります。東日本大震災では、ご高齢の方を中心に「生活不活発病(廃用症候群)」の疑いが見られました。生活不活発病(廃用症候群)とは、全身の心身機能が低下し、筋力が弱くなったり疲れやすくなったり、頭の働きが鈍くなり認知症のような症状が現れるというもの。日常生活の中で頭と体を使い、充実した生活を送ることで予防できるため、避難所で役割を与えられて活発に過ごすことが役立つこともあります。
しかし、被災して避難した直後には、ショックやストレス、混乱から、避難所の運営はもちろん普通に食事をとることもままならないことが多いはずです。

災害対策基本法では、物資調達について、まずは発災後3日までは備蓄で対応、そして発災後4〜7日は被災した地域の自治体などからの要請を待たずに必要と思われるものを国が判断して支援する「プッシュ型支援」、その後は被災地の自治体で取りまとめた要望に従って物資支援をするものとしています。
こうした発災直後は備蓄食料に頼るといった要因や、栄養学的に飢餓にならないようにという考えなどから、避難所での食事はパンやおにぎりに偏りがちなのです。
しかし、日本の避難所での食事の考え方も、徐々に変わりつつあります。
平成25年(2013年)に内閣府が公表した「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取り組み指針」では、一定期間経過後の食事の質の確保として、「食糧の供給に当たり、管理栄養士の活動などにより、長期化に対応してメニューの多様化、適温食の提供、栄養バランスの確保、要配慮者(咀嚼機能低下者、疾病上の食事制限者、食物アレルギー患者(児)等)に対する配慮等、質の確保についても配慮すること」とされています。
このように、メニューの多様化や温かい食事(適温食)の確保への配慮も明記されています。ただし、被災した人が自ら生活を再開していくためにという観点は重視していて、被災地の地元業者が営業を再開するなど発災から一定の期間が経過した段階では、食料等の供給契約を順次地元事業者などに移行させることも示されています。

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